子どもにマウスガードは必要か——効くかどうかより先に、確かめることがありました
私がサッカーのコーチをしていたころに教えていた子が、マウスガードを着けてプレーしています。プロの選手を真似てのことだと聞きました。マウスガードは、歯に被せて使う防具です。「マウスピース」とも呼ばれます。代表戦の中継でも、口元に白い装具をのぞかせている選手が映ります。
「マウスガードをつけると、サッカーのパフォーマンスが上がるらしい」。そういう話も、聞いたことがあります。本当なら、着けるだけで上手くなる道具ということになります。私は興味を持って、論文を調べ始めました。
マウスガードは、強くなるための道具なのか。それとも、守るための道具なのか。私は前者の側から調べ始めました。先に結論を書くと、「効くかどうか」の答えにはたどり着けませんでした。分からなかったので、私は取り入れませんでした。ただ、調べ終わって分かったことが一つあります。私は、確かめる順番を間違えていました。 はっきりした証拠があるのは「守る」の側で、真似されている側のプロ選手自身も、まず歯を守るためだと説明していたのです。
マウスガードと口・顔のケガの関係を調べた26件の研究を集めて、まとめて計算し直したもの(2019年発表。競技・対象国は多岐にわたる)
Knapik JJ, et al. Effectiveness of mouthguards for the prevention of orofacial injuries and concussions in sports: systematic review and meta-analysis. Sports Medicine. 2019;49(8):1217-1232.[1]
「守る」の側は、証拠がはっきりしていました
軸にした論文がしたことは、単純です。マウスガードを着けている人と着けていない人とで、口や顔のケガの起きかたを比べた研究を26件集めて、まとめて計算し直しました[1]。ケガの件数を直接数えた研究のまとめでは、着けていない人は、口や顔のケガのリスクが約2.3倍でした。言えるのは、このリスクの比較までです。着ければ折れない、という意味ではありませんし、著者自身が、集めた研究は設計もケガの数え方もばらばらで、方法に弱点があると明記しています。それでも、向きは一貫していました。
英国スポーツ運動医学会も、2024年の声明で「口や歯のケガが起こりうるなら、試合でも練習でも、よく合ったマウスガードを使うべきだ」という趣旨の推奨を出しています[3]。
日本スポーツ歯科医学会の2026年7月時点のまとめによれば、サッカーはマウスガードが義務の競技ではありません(国際サッカー連盟のルール上は「危険な装備でなければ使用可能」、つまり「着けてよい」という扱いです)[14]。それでも、歯のケガと無縁ではありません。7〜18歳のアマチュアサッカー選手667名の口の中を歯科医が実際に診た調査では、4人に1人に、折れたり欠けたりした痕のある歯が見つかり、サッカーが原因とされたものは全体の1割ほどでした[2]。ぶつかった拍子に歯が折れる事故は、実際に起きます。私も一度、見たことがあります。
なお、頭を打ったときに効くかどうか——マウスガードにはこちらを期待する話もありますが——については、研究のあいだで議論が続いています。この記事では踏み込まず、歯と口の話に絞ります。
では、「強くなる」の側はどうなのか
「強くなる」という主張には、中身が2種類ありました。一つは、噛みしめると力が出る、という説明。もう一つはむしろ逆で、マウスガードが噛みしめをやわらげたり、顎の位置をよいところへ導いたりする、という説明です。同じ「効く」でも、言っていることが違います。
では、実際はどうか。大人の競技者では、たくさんの研究をまとめたものどうしでも、結論がそろっていません。「全体としては向上していた」とまとめたもの[4]がある一方で、27件を集めた別のまとめは「結論は出ていない」としています[5]。顎の位置を導くタイプの装置も、最新のまとめは「まだ仮説の段階」で、日常的に効果をうたえる段階にないと結論しています[6]。
子どもではどうか。思春期の競技者を対象にした研究では、一部の指標——自転車こぎで測る瞬発的なパワーなど——で向上が報告されています。ただし全部ではなく、同じ研究の中でも、握力・跳躍・スプリントには差がありませんでした[7]。一方、「悪影響があるか」のほうは、14〜17歳のテコンドー選手22名を調べた試験でも[8]、U-17のサッカー・フットサル選手40名で、着ける回と着けない回の順番をくじ引きのように無作為に決めて調べた試験でも[9]、持久力の指標は下がりませんでした。どちらの試験で使われたのも、歯科で型を取って作ったマウスガードです。
ここまで何度か「歯科で型を取って作るもの」と書いてきました。お湯で温めて自分の歯に合わせる市販のものとは、研究の上でも扱いが分かれているからです。先ほどと同じように、くじ引きの形で比べた試験14件をまとめた分析では、マウスガード全体では持久力の指標が下がっていましたが、歯科で作るものに限ると、差がありませんでした[10]。息のしにくさや話しにくさも、歯科で作るもののほうが小さいと報告されています[11]。英国の学会の声明が「パフォーマンスへの悪影響は示されていない」と言っているのも、よく適合した、歯科で型を取って作るものに限った話です[3]。
「上がるらしい」の出どころを、たどってみました
私が聞いた「パフォーマンスが上がるらしい」は、どこから来た話なのでしょうか。検索すると、同じ趣旨の解説はいくつも見つかりました。私はそのうちの一つを、見出しから根拠まで通して読み、挙がっていた文献に一つずつ当たってみました。
先に書いておきたいのは、根拠の段落は正確だったということです。研究で言えているのは「きちんと作られたものは悪影響を与えない」というあたりまでだ、という趣旨が、本文にはきちんと書かれていました。ここまで見てきた研究の状況と合う内容です。
ただし、続きがあります。根拠として挙がっていた文献をたどってみると、著者名や巻号が原典と合わないものが、複数ありました。 論文自体は実在するのに、書かれていた場所では見つからない、という形です。
「信用できない」と受け取ったわけではありません。本文の記述は正確だったからです。学んだのは、別のことでした。見出しと根拠の段落は、強度が違うことがある。 私が読んだものでは、見出しの言葉は「向上」の側を向き、根拠の段落は「悪影響を与えない」までで止まっていました。見出しだけを持ち帰れば、話は一段強くなって伝わります。そして、根拠の段落まで読むという作業そのものには、専門知識は要りませんでした。
真似される側の本人は、どう説明しているのか
プロ選手のマウスガードについては、本人が語った記事があります。サッカー日本代表の遠藤航選手のインタビュー記事で、2022年に「マウスピースの効能は勘違いされている」という見出しで公開されたものです[12]。
遠藤選手はその中で、着ける理由としてまず歯を守ることを挙げたうえで、着けない場合に何が起きるかをこう説明しています。
「歯が折れるんじゃないか」と思いながらプレーをして「デュエル」に行けなくなって、自分の良さをまったく出なくなる可能性があります[12]
デュエルとは、球際の競り合いのことです。この説明は、私が調べていた「強くなるための道具か、守るための道具か」という二択に、収まっていません。歯が折れるかもしれないと思いながらでは、思い切って競り合いに行けない。守られているから、思い切って行ける。 本人の中では、守ることと強くなることが、最初から分かれていないのです。
噛みしめについても、遠藤選手は「奥歯を食いしばるというより、前歯がちょっと当たってるという感覚です」と語っています[12]。先ほどの2種類の主張で言えば、「噛みしめると力が出る」側ではなく、やわらげる側です。
振り返ると、話はこう並んでいました。本人は「守るため」と言い、記事は「向上」と書き、私は「上がるらしい」と聞いた。 それぞれは嘘ではありません。ただ、伝わるあいだに、少しずつ強くなっていました。
そして、受け取った私自身も同じでした。強くなるかを調べているあいだ、歯が折れることを勘定に入れていませんでした。
子どもの歯は、生え変わります
最後に、プロ選手を真似るときに、子どもの側だけが持っている事情をひとつ。子どもは歯が生え変わり、あごも成長します。英国の学会の声明は、成長や矯正で歯の数と位置が変わるため、若い選手ほどマウスガードの作り替えが必要になりやすい、としています[3]。日本スポーツ歯科医学会の資料も、半年から1年に1度の点検と、1年に1度あるいは1シーズンに1度程度の作り替えを勧めています(材料が傷んでいくことが理由に挙げられています)[13]。作って終わり、の道具ではありません。
そして、市販のものと歯科で作るものとで「どちらがどれだけ守れるか」の比較は、英国の学会の声明自身が「まだ質の高い研究が必要だ」と書いている段階です[3]。だからこの記事も、どれを選ぶかには踏み込みません。
この記事で言えないこと
まず、「着ければ折れない」とは言えません。 研究が示しているのはリスクの比較で、ゼロになる話ではありません。次に、私が事故を一度見た、という事実からは、それが多いのか少ないのかは言えません。 起きやすさは、調査の数字で見る必要があります。また、本人の説明と「向上」と書かれた解説が、矛盾しているとも言えません。 並べる順番が違うだけで、どちらかが嘘だという話ではありません。私が聞いた「上がるらしい」がもともと何に基づいていたのかも、推測の域を出ません。最後に、頭を打ったときに効くかどうかに、この記事は答えていません。 研究のあいだで議論が続いている論点です。
家庭でできること
この一件から持ち帰ってほしいことを、3つにまとめます。
- その道具が「何を防ぐものか」を、先に確かめる。「効くか」から調べたくなりますが——私がそうでした——効果の研究は結論がそろわず、調べても決めきれないことがあります。何を防ぐための道具かは、それより先に、はっきり確かめられます。「効くか」は、そのあとに回してください
- 効能の話を聞いたら、その場で否定も肯定もせず、出どころを尋ねる。 読むときは、見出しの言葉で判断せず、根拠の段落まで読んでください。見出しと根拠の段落は、強度が違うことがあります。見出しで止まらず、根拠の段落までたどり着いてください
- 次に歯科に行く機会に、スポーツで歯をぶつけることについて、一度聞いてみる。 着けるかどうかを決める前でかまいません。定期健診でも、別の用事のついででもかまいません。子どもは歯が生え変わるので、作る場合は合わなくなることもあります。点検や作り替えの目安も含めて、口の中を実際に診ている専門家に、まず聞いてみてください
調べ終えたいまも、私がマウスガードそのものについて言えることは多くありません。ただ、効能の話を聞いたときに最初にする質問は、はっきり変わりました。
- Knapik JJ, Hoedebecke BL, Rogers GG, Sharp MA, Marshall SW. Effectiveness of mouthguards for the prevention of orofacial injuries and concussions in sports: systematic review and meta-analysis. Sports Medicine. 2019;49(8):1217-1232. DOI
- Qudeimat MA, AlHasan AA, AlHasan MA, Al-Khayat K, Andersson L. Prevalence and severity of traumatic dental injuries among young amateur soccer players: A screening investigation. Dental Traumatology. 2019;35(4-5):268-275. DOI
- Ahmed I, Gallagher J, Needleman I, Bower R, Ashley P, Aloui A, Haughey JP, Abdellaoui G, Fine P. Mouthguards for the prevention of orofacial trauma in sport: the Faculty of Sport and Exercise Medicine (UK) position statement. British Journal of Sports Medicine. 2024;58(24):1475-1477. DOI
- Cao R, Zhang X, Xu Y, Zhao W, Qiu P, Liu W. Influence of wearing mouthguards on performance among athletes: A systematic review. Journal of Science and Medicine in Sport. 2023;26(9):493-503. DOI
- Miró A, Buscà B, Aguilera-Castells J, Arboix-Alió J. Acute effects of wearing bite-aligning mouthguards on muscular strength, power, agility and quickness in a trained population: a systematic review. International Journal of Environmental Research and Public Health. 2021;18(13):6933. DOI
- Sadek S, Alamin M, Alardah M, Farag D. TENS/EMG-guided myocentric mandibular positioning: a systematic review and evidence map. Frontiers in Oral Health. 2026;7:1810650. DOI
- Cetin C, Keçeci AD, Erdoğan A, Baydar ML. Influence of custom-made mouth guards on strength, speed and anaerobic performance of taekwondo athletes. Dental Traumatology. 2009;25(3):272-276. PubMed
- Keçeci AD, Cetin C, Eroglu E, Baydar ML. Do custom-made mouth guards have negative effects on aerobic performance capacity of athletes? Dental Traumatology. 2005;21(5):276-280. PubMed
- Collares K, Correa MB, Mohnsam da Silva IC, Hallal PC, Demarco FF. Effect of wearing mouthguards on the physical performance of soccer and futsal players: a randomized cross-over study. Dental Traumatology. 2014;30(1):55-59. PubMed
- Caneppele TMF, Borges AB, Pereira DM, Fagundes AA, Fidalgo TKS, Maia LC. Mouthguard use and cardiopulmonary capacity - a systematic review and meta-analysis. Sports Medicine International Open. 2017;1(5):E172-E182. DOI
- Ingle A, Dhawan P, Rani S, Khan U. A comprehensive systematic review and meta-analysis comparing the comfort level of customized mouthguards to self-adapted mouthguards in athletes. Quintessence International. 2025;56(5):382-392. DOI
- サッカー日本代表・遠藤航が語る「マウスピースの効能は勘違いされている」. SYNCHRONOUS. 2022年11月16日公開. 記事
- 日本スポーツ歯科医学会ワークショップ作成. マウスガードをご使用の方へ Ver.1.1. 2013年11月11日. PDF
- 日本スポーツ歯科医学会. スポーツ競技とマウスガード(2026年7月現在). PDF
本記事は論文に基づく一般的な情報提供であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。お子さんの歯やマウスガードについて気になることがあるときは、歯科医師にご相談ください。