スポーツドリンクで虫歯になる?——問題は「量」ではなく「頻度」でした
週末の練習の日、息子の水筒にはスポーツドリンクが入っています。平日は水かお茶。これはわが家のルールです。
白状すると、このルールを決めるとき、わたしは少し身構えていました。わが家には口腔ケアの専門職がいて、歯に関する決定権は完全にそちらにあるからです。「練習が長い日は糖質と塩分もとらせたい」という提案が通るのか。結果は、あっさり通りました。ただし条件付きで。
その条件が、この記事の結論そのものでした。虫歯にとって問題なのは、甘い飲み物の「量」ではなく「頻度」——口の中に糖がある時間の長さだったのです。
「甘いものを摂ると虫歯になる」。この昔ながらの常識は、科学的に正しい。ただし、多くの人が思っているのとは少し違う形で正しい。今回は、2026年に発表されたばかりの研究のまとめを軸に、「じゃあ、うちはどうするか」まで持って帰れる形で整理します。
2〜18歳・計59,383名を対象にした37研究を統合し、「量」と「頻度」のどちらが虫歯を予測するかを検討した系統的レビュー
Pombo-Lopes J, et al. Impact of sugar consumption on dental caries in children and adolescents: a systematic review of frequency versus quantity. BMC Public Health. 2026.[1]
「甘いもの=虫歯」は正しい。ただし「量」の話ではありませんでした
甘いものを摂ると虫歯になる——これは疑いようがありません。世界中の研究が一致していますし、WHOも遊離糖類(食品に加えられた砂糖に加え、蜂蜜・シロップ・果汁に含まれる糖を指します)の摂取を総エネルギーの10%未満に減らすよう勧告しています[2]。
ただ、ここで質問です。「甘いもの」を減らすとして、何を減らしますか。多くの人は無意識に「総量」を思い浮かべます。ジュースは1日1本まで、お菓子は少しだけ。ところが2026年に発表された系統的レビュー[1]——子どもと青少年を対象にした37の研究(計約59,000人)をまとめ、「量と頻度のどちらが虫歯を予測するか」を検討したもの——は、摂取の頻度、つまり「1日に何回、口の中に糖が入るか」の方が、総量よりも強い決定要因という結論に至りました。
同じ500mlのスポーツドリンクでも、休憩時間に飲み切るのと、ベンチに置いてちびちび2時間かけて飲むのとでは、歯にとってまったく別の出来事になります。量は同じなのに、です。
ひとつ補足しておくと、これは「量はどうでもいい」という意味ではありません。WHOの勧告の土台になった系統的レビュー[3]は、糖の総摂取量そのものも虫歯と関連することを示しています。頻度と量は、どちらか一方ではなく、頻度の方が効きが大きい二段構えだと考えるのが正確です。
口の中で起きていること——1杯ごとに「酸の時間」が始まる
仕組みは1940年代から知られています。糖が口に入ると、歯の表面にへばりついた細菌の膜——プラーク——の中で、細菌がそれを分解して酸を作ります。酸性になるのは口の中全体ではなく膜の内側で、そこのpHは数分で急降下します[4]。歯のエナメル質は、ある酸性度(臨界pH、およそ5.5)を超えると表面のミネラルが溶け出し始めます。そして唾液がこの内側まで届いて中和し、元に戻すまでに、30〜60分ほどかかります[5]。この一連のpHの落ち込みと回復のカーブは、発見者の名をとって「ステファンカーブ」と呼ばれています。
つまり、飲むという行為は1回ごとに「数十分の酸の時間」のスイッチを押しています。1本を10回に分けて飲めば、スイッチを10回。歯が溶ける時間と、唾液が修復する時間の綱引きで、修復側が追いつかなくなる——これが「ダラダラ飲み」が最悪と言われる理由です。逆に言えば、同じ1本でも短時間で飲み終えれば、スイッチは1回で済みます。
これは新しい発見ではありません。1950年代にスウェーデンで行われた大規模な観察研究[6]で、糖を食事と一緒に摂った場合よりも、食間に、しかも口に残りやすい形で摂った場合に虫歯が最も増えることが示されていました。70年前から分かっていたことを、最新のレビューが改めて確認した、という関係にあります。
スポーツドリンクの二つの顔
ここでスポーツドリンクの立場を整理しておきます。悪者にするためではありません。
スポーツドリンクは歯に対して二つの顔を持ちます。一つは糖(細菌の燃料)。もう一つは飲み物自体の酸性度です。米国で市販飲料379種のpHを実測した研究[7]では、スポーツドリンクの平均pHは約3.3で、大半の製品が歯のミネラルが溶け出すライン(臨界pHは唾液の組成により約5.2〜5.7とされます[8])よりはっきり酸性側にありました。
ここで用語をひとつ分けておきます。飲み物自体の酸が歯の表面を直接溶かすことを酸蝕、細菌が糖から作った酸で歯が溶けることをう蝕(虫歯)と呼び、機序は別のものです。スポーツドリンクは糖と酸の両方を持つので、この二つのルートを同時に踏むことになります。歯にとって条件の悪い飲み物であることは確かです。
一方で、長時間の運動や暑い日の練習では、水分と糖質・電解質の補給という正当な役割があります。熱中症のリスクと天秤にかけるべき場面で、歯だけを理由に禁止するのは本末転倒です。実際、歯科の専門団体も「飲むな」とは言っていません。神奈川県歯科医師会は、スポーツドリンクの糖と酸性度を具体的に示した上で、「チビチビ・ダラダラ飲みを避けて一気に飲む」「涼しい季節や短時間なら水やお茶で十分」「大量に汗をかく夏場には有効」という、飲み方の工夫を提案しています[9]。
問題は製品ではなく、飲み方。ここがこの記事の芯です。
現場と制度は、実はもう動いています
この話は、個々の家庭の自己責任だけに委ねられているわけではありません。日本の子どもは学校歯科検診という仕組みで毎年チェックを受けますし、スポーツの現場に目を向ければ、日本スポーツ協会と日本歯科医師会が共同で養成・認定する「日本スポーツ協会公認スポーツデンティスト」という制度もあります[10]。スポーツと歯の関係を専門にする歯科医が、すでに制度として存在しているということです。
もっと身近なところでは、施設単位のルールもあります。人工芝のグラウンドでは「水以外の飲み物は禁止」という運用が珍しくありません。設備保護のためのルールですが、結果として「糖の入った飲み物を口にする回数」を減らす方向に働いている——現場は、理屈を知らなくても、案外正しい方向に動いていたりします。
この記事で言えないこと
頻度と虫歯の関係を示す研究の多くは観察研究で、飲み方だけを取り出した厳密な実験は困難です(軸にした系統的レビュー[1]でも、含まれた37研究のうち34は横断研究でした)。また、唾液の量や質、フッ化物(フッ素入り歯磨き粉)の使用、歯みがきの習慣など、個人差の要因が大きく、「スポーツドリンクを飲むと必ず虫歯になる」わけでも、「短時間で飲めば絶対に安全」なわけでもありません。心配な場合は、かかりつけの歯科でお子さんの飲み方ごと相談してください。
家庭でできること
わが家で実際に運用している形も含めて、5つにまとめます。
- 管理するのは「量」ではなく「口の中に糖がある時間」。飲むなら、休憩や食事のタイミングでまとめて。ベンチに置いてちびちび、を今日からやめる。これだけで大半の対策になります
- 練習の長さで使い分ける。短い練習・涼しい日は水かお茶。長時間の練習や暑い日はスポーツドリンク。わが家は「平日は水かお茶、(練習の長い)週末はスポーツドリンク」という形に落ち着きました。糖質・塩分の補給と、歯のリスクと、子どもの「飲みたい」という気持ち。全部を変数に入れた結果です
- 飲んだあとに水をひと口。うがいができない場面でも、水で流すだけで口の中の糖と酸はかなり薄まります
- 寝る前だけは、糖を口に残さない。睡眠中は唾液の分泌がほぼ止まり[11]、中和と洗い流しの働きが最も弱くなります。修復の綱引きが一番不利になる時間帯なので、夜の一杯だけは水に
- 定期検診で「飲み方」ごと相談する。歯の状態には個人差があります。うちの子の場合はどうか、を診てもらえるのは専門家だけです
甘い飲み物を敵にする必要はありません。敵はダラダラ飲みです。
- Pombo-Lopes J, Silva ML, Neves B, Grillo-Evangelista J. Impact of sugar consumption on dental caries in children and adolescents: a systematic review of frequency versus quantity. BMC Public Health. 2026. DOI
- World Health Organization. Guideline: sugars intake for adults and children. Geneva: World Health Organization; 2015. WHO
- Moynihan PJ, Kelly SA. Effect on caries of restricting sugars intake: systematic review to inform WHO guidelines. Journal of Dental Research. 2014;93(1):8-18. PubMed
- Stephan RM. Changes in hydrogen-ion concentration on tooth surfaces and in carious lesions. Journal of the American Dental Association. 1940;27(5):718-723. DOI
- Bowen WH. The Stephan curve revisited. Odontology. 2013;101(1):2-8. DOI
- Gustafsson BE, Quensel CE, Lanke LS, et al. The Vipeholm dental caries study: the effect of different levels of carbohydrate intake on caries activity in 436 individuals observed for five years. Acta Odontologica Scandinavica. 1954;11(3-4):232-364. PubMed
- Reddy A, Norris DF Jr, Momeni SS, Waldo B, Ruby JD. The pH of beverages in the United States. Journal of the American Dental Association. 2016;147(4):255-263. PubMed
- Dawes C. What is the critical pH and why does a tooth dissolve in acid? Journal of the Canadian Dental Association. 2003;69(11):722-724. PubMed
- 公益社団法人神奈川県歯科医師会. スポーツドリンクの飲みかたにご注意! 記事
- 公益財団法人日本スポーツ協会・公益社団法人日本歯科医師会. 日本スポーツ協会公認スポーツデンティスト. 公認スポーツデンティスト協議会
- Dawes C. Circadian rhythms in human salivary flow rate and composition. The Journal of Physiology. 1972;220(3):529-545. PubMed
本記事は論文に基づく一般的な情報提供であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。お子さんの歯について気になることがあるときは、歯科医師にご相談ください。