うちの子は色を見分けられていますか——「見分けられる?」と聞いても分からない理由
ビブスの色は、青と紫だったか、黄色とオレンジだったか。はっきり書けないのは、私にその2色が、ほとんど同じに見えていたからです。
サッカーの指導者講習の実技で、チーム分けのビブスが配られました。コートの中で、どちらが味方か分かりません。受講者は50人を超えていました。その全員に「私の見やすい色に変えてください」と頼むのは、気が引けました。それに、色が分からなくても試験には落ちません。だから私はフィールドの選手を避けて、キーパーをやりました。キーパーなら、パスの出しどころが限られるからです。
その日、私が色を見分けられていないことに気づいた人は、たぶん一人もいません。私が言わなかったからです。
先に結論を書きます。色でチームを分けるのは、人が決めたやり方です。そして色が見えていない子は、「見えない」と言いません。なんとかしてしまうから、気づかれません。 「色は見分けられる?」と聞いても分かりません。だから、親のほうから調べるか、色に頼らない形に変えるしかありません。
私は大人なので、しのぎ方を選べます。サッカーの動画を編集していて色で困れば、自分のために道具も作れます。子どもは、作れません。
この記事で扱うのは、以前「色弱」と呼ばれていた見え方のことです。呼び名は時代とともに変わってきました。この記事では「色覚特性」と書きます。
ここから、いったん大人の調査を見ます。子どもに当てはめるためではなく、「いつか本人が気づくだろう」がどこまで本当かを確かめるためです。
医科大学生1,115人を対象に、色の見え方の違いがある人がどれくらいいるか、そして本人がそれに気づいていたかを調べた調査(2021年・サウジアラビア)
Alamoudi NB, AlShammari RZ, AlOmar RS, AlShamlan NA, Alqahtani AA, AlAmer NA. Prevalence of color vision deficiency in medical students at a Saudi University. Journal of Family and Community Medicine. 2021;28(3):196-201.[1]
本当は、子どもが何歳ごろ、どんなきっかけで「自分の見え方は違う」と気づくのかを調べた調査を軸に置きたかったのですが、見つけられませんでした。気づかれないことを扱う記事で、気づいた時期の調査が見つからない——それ自体が、この話の一部なのだと思います。
数字で見ると、珍しくありません
学校が保護者に配る色覚検査の希望調査には、例文があります。そこに書かれている割合は、男の子で20人に1人、女の子で500人に1人[2]。男の子だけで数えれば、クラスにも、チームにも、いる計算になります。同じ用紙には「色が全く分からないというわけではなく、色によって見分けにくいことがあるということです」とも書かれています[2]。親が実際に受け取る紙に、この説明はすでに書かれています。
どの色とどの色が見分けにくいかは、人によって違います。一人の例として書くと、私の場合は、白とピンク、赤と緑、オレンジと黄色、水色と紫。ビブスや持ち物の定番の色が、いくつも入っています。テレビでサッカーを見ていて、どちらがどちらのチームか分からなくなることもあります。小学生のころは、黒板の色チョークで苦労しました。30年以上前の話で、今はチョークが違うのかもしれません。ただ、当時の私が「見えにくい」と手を挙げたことは、一度もありません。
では、見えにくい本人は、そのことに気づいているのか。軸にした調査[1]は、それを確かめています。やったことは2つです。大学生に、自分の色覚について質問票に書いてもらう。それとは別に、訓練を受けた調査員が、色を見分ける検査をする。この2つを突き合わせました。結果、検査で該当した23人のうち、20人が、自分では気づいていませんでした。 相手は医学部の学生、つまり健康について学んでいる人たちです。言えるのはここまでで、日本の子どもにそのまま当てはめられるかは、この調査からは言えません(あとの「言えないこと」に書きます)。
言わなかったのではなく、言うことがなかった
小学生の私は、板書が見えにくいことを誰にも言いませんでした。隠していたのではありません。みんな同じように見えているはずだから、自分だけ言うのはおかしいと思っていました。
大人の私は、講習でビブスが見分けられないことを、分かっていて言いませんでした。代わりに、ポジションを変えました。
この2つを、並べておきます。
私が選んでいた色
コーチをしていたころ、私はビブスの色を選ぶ側でした。ビブスはチームの備品で、私が来たときには、もうそこにありました。選べるのは色だけです。正直に書くと、私は自分が見やすい色を選んでいました。見えにくいのは私のほうなのに、私が選んだ色は、私に見えやすい色でした。それで見えにくくなった子がいたかどうかは、分かりません。いたとしても、言わなかったはずです。私が言わなかったように。
ビブスには番号が付いています。ただし両チームに付いているので、どちら側かは分かりません。足りない目印は、足されていないのではなく、要るほうに足されていないのです。試合中に知りたいのは、誰かである前に、どちら側か。それを担っているのは、色だけでした。ついでに書くと、コーチとして実際に困っていたのは色よりサイズのほうで、低学年と高学年では大きさを変える必要があります。ビブスは、色だけの話でもありません。
色で組を分けた試合は、プレーの判断と一緒に、色の見分けも測ってしまいます。うまさを測っているつもりの選抜が、実は生まれ月の差を測ってしまっている——早生まれの記事で書いたのと、同じ形です。動きが止まって見えた子は、判断が遅いのではなく、どちらが味方か見えていないのかもしれません。
気づく経路は、2つしかありません
子どもが自分の見え方の違いに気づく道は、学校の検査か、偶然か、およそこの2つです。私は検査の世代で、小学校の色覚検査で知りました。
いまの学校では、色覚検査は2003年度から健康診断の必須項目ではなくなり、希望する人が個別に受ける形になっています[3]。無くなったのではありません。多くの学校では、保護者に希望の有無を尋ねる用紙を配る形がとられています[2]。
そのうえで、文部科学省は2014年の通知に、こう書いています[3]。
児童生徒等が自身の色覚の特性を知らないまま卒業を迎え,就職に当たって初めて色覚による就業規制に直面するという実態の報告や,保護者等に対して色覚異常及び色覚の検査に関する基本的事項についての周知が十分に行われていないのではないかという指摘もある。
「就業規制」というのは、仕事に就くときに、色の見分けがつくことが条件とされる場合がある、ということです。
日本眼科医会の指針も、必須項目から外れたあとのことを「全国の多くの小学校で色覚検査が行われなくなり,自身の色覚異常の特性を知らないで不利益を受ける事例が当会の調査で分かった」と書いています[2]。
「子どもは、自分の見え方の違いを知らないまま大きくなることがある」——この記事の芯は、私の体験談である前に、国の通知と眼科医の団体の指針に、そのまま書いてあります。希望した人が受ける形は、疑っている親しか通しません。そして疑う理由は、なかなか表に出てきません。子どもがなんとかしてしまうからです。案内が来ないことは、検査が無いことを意味しません。
この記事で言えないこと
「23人のうち20人」という数字を、そのままお子さんに当てはめることはできません。軸にした調査[1]が調べたのは、日本の子どもではなく、サウジアラビアの医科大学生(平均21.7歳)だからです。一時点を切り取った調査で、ほかの年齢層に広げるには限界があると、著者自身が書いています。「気づいていなかった」も、この調査が本命として調べたことではなく、途中で分かった副産物です。この調査は、生まれつきかどうかを「家族に同じ見え方の人がいるか」で分けています。本人が気づいていないなら、家族も気づいていないかもしれません。著者自身が、そう書いています。私は今でも、ほかの人に何がどう見えているのか分かりません。ここに書いたのは、私に見えている世界の話です。
家庭でできること
先に、聞かないほうがよい質問から書きます。「どう見えるの?」「これ、何色に見えるの?」は聞かない。 生まれてから一度も、他人の見え方と自分の見え方を比べたことがない相手に、比較を求める質問だからです。答えは存在しません。そもそも見え方は、色覚特性のあるなしにかかわらず、本人の中にしかありません。誰も、ほかの人の目をのぞいて確かめることはできません。悪気なく聞かれ続けること自体が、本人の負担になります。
そのうえで、明日できることは3つです。
1. 色の似たものを2つ並べて、「この2つ、同じ色に見える?」と聞いてみる。 比べる材料を親が用意すれば、答えられる質問になります。ただし、これは検査ではありません。同じと答えても、違うと答えても、家庭では判定できません。判定は眼科の仕事で、この質問の目的は、眼科に行く理由を見つけることだけです。
2. 色覚検査の案内が来ていなくても、学校に聞く。 国は2014年の通知で、保護者への周知が十分に行われていないのではないか、と書いています[3]。案内が来ないことは、検査が無いことを意味しません。眼科でも受けられます。
3. 公園などで組に分かれて遊ぶとき、「片方の組だけ帽子」で分ける。 色を見なくても、かぶっているかどうかで分かります。帽子でも上着でもよく、買い足すものはありません。
桜の色
最後に、スポーツの外の話を1つだけ。数年前、友人といたとき、桜が咲いていました。私はあの花を、白だと言いました。そこで初めて、桜がピンク色だと知りました。何十年も見てきた花です。あの日たまたま口に出さなければ、いまも白だと思っています。
こういうことは、たぶん生活のあちこちで、音を立てずに起きています。私が知らないままの色も、まだあるのだと思います。
- Alamoudi NB, AlShammari RZ, AlOmar RS, AlShamlan NA, Alqahtani AA, AlAmer NA. Prevalence of color vision deficiency in medical students at a Saudi University. Journal of Family and Community Medicine. 2021;28(3):196-201. PubMed
- 日本眼科医会. 眼科学校保健 資料集「学校における色覚についての対応」指針. 平成28年4月1日. PDF
- 文部科学省スポーツ・青少年局長. 学校保健安全法施行規則の一部改正等について(通知). 26文科ス第96号. 平成26年4月30日. PDF
本記事は公的資料と論文に基づく一般的な情報提供であり、診断に代わるものではありません。お子さんの色の見え方について気になることがあるときは、眼科にご相談ください。