早生まれはスポーツで不利なのか——「選ばれる確率」と「届く高さ」は別の話でした
息子は2月生まれの小学6年生です。学年で整列すると、前から数えたほうが早い。
同じ学年には、彼より10か月以上前に生まれた子がいます。大人の10か月はほとんど誤差ですが、小学生の10か月は、身長でも筋力でも、はっきり目に見える差になります。それでも子どもたちは同じコートに立ち、同じ基準で比べられ、同じ選抜の目にさらされます。
「早生まれだから」。この言葉が頭をよぎるたびに、これは親の慰めなのか、それとも根拠のある話なのか、確かめたくなりました。だから、論文を読みました。
先に結論を書きます。選ばれる確率では、早生まれはたしかに不利です。でも、続けた子が最後に到達する高さでは、その不利は消えます。 むしろ逆転を示すデータさえあります。順に見ていきます。
14競技・16か国・253サンプルを統合した相対年齢効果のメタ解析
Cobley S, et al. Annual age-grouping and athlete development: a meta-analytical review of relative age effects in sport. Sports Medicine. 2009;39(3):235-256.[1]
「早生まれは損」は、半分だけ本当です
日本の学年は、4月2日生まれから翌年4月1日生まれまでで区切られています。つまり同じ「小学6年生」の中に、ほぼ1歳ぶんの開きがある。4月生まれの子が11年と10か月生きてきたとき、3月生まれの子はまだ11年と0か月です。
大人にとっての10か月は誤差ですが、成長期の10か月は違います。身長も、筋力も、走る速さも、そして「状況を読んで判断する力」のような頭の側の発達も、この時期は月単位で伸びていきます。同学年という同じ土俵は、実は同じ土俵ではありません。
ここで、混ざりやすい二つの話を分けておきます。同学年の中の体格差には、生まれ月の差と、早熟か晩熟かの差という、別々の原因があります。生まれ月の差は、全員が大人になれば消えます。早熟・晩熟は成長のタイミングの個人差で、いま小さいことと、最終的にどこまで伸びるかは別の話です(これはそれだけで一本の記事になるテーマなので、稿を改めます)。
この記事で扱うのは前者、生まれ月の話です。そして生まれ月の影響は、体の差そのものよりも、「選ばれるかどうか」という場面で最もはっきり現れることが分かっています。
世界中で確認されている「選抜の偏り」
スポーツ科学には「相対年齢効果」という言葉があります。同じ学年・同じ年齢区分の中で、区切り直後に生まれた子(日本なら4〜6月生まれ)ほど選抜されやすく、区切り直前に生まれた子(1〜3月生まれ)ほど選抜されにくい——という現象のことです。
これは一つや二つの研究の話ではありません。14競技・16か国の研究をまとめて分析したメタ解析[1]で、ユース年代の選抜チーム・代表チームにおいて学年前半生まれが一貫して多いことが確認されています。学年の最初の3か月に生まれた子は、最後の3か月に生まれた子に比べて、選ばれた子と選ばれなかった子の人数の比が約1.65倍大きくなっていました(この比べ方を「オッズ比」と呼びます)。そしてこの偏りは、競技レベルが上がるほど、人気競技ほど強くなります。9〜14歳の子どもを一地域の全競技で調べた調査でも、偏りは参加者の多いチーム競技の上位リーグに集中して現れました[2]。女子スポーツを対象にしたメタ解析でも、同じ向きの偏りが確認されています[3]。
大事なのは、この偏りの読み方です。選抜チームに遅生まれが多いのは、遅生まれに才能が多いからではありません。選ぶ側が「いま大きくて、いま強い子」を選ぶからです。そしてユース年代の「いま大きくて強い」は、かなりの部分がただの月齢差です。つまり選抜は、才能を測っているつもりで、生まれ月を測ってしまっていることがある。
「うちの子は選ばれなかった」が「うちの子には才能がない」を意味しない理由が、ここにあります。では、選ばれなかった早生まれの子たちは、そのまま消えていくのでしょうか。データは、意外な続きを見せてくれます。
ところが、頂点では逆転が起きます
選抜の入り口では不利。ここまでは常識どおりの結果でした。ところが、プロの世界の一番上を調べると、話が変わります。
カナダのアイスホッケーを調べた研究[4]では、NHLに到達した選手の中で比べると、学年後半生まれの選手のほうがキャリアが長く、オールスター級に届く割合も高い傾向が出ました。後続の研究[5]でも、トップ層での「逆転」は繰り返し報告されています。アルペンスキーでは、男子ワールドカップの総合上位50人の中で比べると、年の後半生まれの選手のほうが獲得ポイントが多い、という逆の傾向の報告さえあります[6](この競技の年齢区分は学年ではなく暦年区切りです)。
なぜこんなことが起きるのか。有力な説明は二つあります。一つは「アンダードッグ仮説」——体格で押し切れない時期を過ごした子は、技術や判断力といった、あとで伸び代の大きい武器を先に磨かざるをえない、という考え方です。もう一つは選抜の裏返しで、不利な条件で生き残った早生まれは、月齢の下駄なしで選ばれるだけの実力が最初から要求されていた、という見方です。
日本のデータ——スポーツの外でも
相対年齢効果は海外だけの話ではありません。プロ野球とJリーグの選手データを統計モデルで分析した日本の研究[7]は、同学年の中で相対年齢が1か月下がるごとに、プロに到達する率がサッカーで約9%、野球で約8%ずつ低くなると報告しています。ひと月ごとの差は小さく見えますが、12か月分積み重なると、こうなります。
それでも、頂点に届く早生まれは現実にいます。サッカーで言えば、香川真司選手は3月17日、内田篤人選手は3月27日の生まれ。学年でほぼ最年少のまま、二人とも世界の舞台に立ちました。そして注目すべきは、日本サッカー協会自身がこの偏りを公式に認めていることです。JFAのユース育成ダイレクター(取材当時)は、12〜13歳のトレセン選出者が4〜6月生まれに偏る現状と、その原因が「成長の早い子を上手い・強いと判断しやすい」選抜側にあることを認めた上で、こう述べています——「A代表まで広げて見ると、生まれ月は関係なくなり、平均的になります。つまり早生まれの子も、後から追いついてくるのです」[8]。現在は9月以降生まれの選手を対象にした「フューチャープログラム」という施策も動いています。選ぶ側が問題を認め、仕組みの側を直しにいっている。この事実は、いま選ばれなかった子の親にとって、小さくない意味を持ちます。
さらにスポーツの外では、東京大学などのグループによる研究[9]が、約110万人分の学校データから、早生まれの不利は学力面では中学までにかなり縮まる一方、勤勉性や自己効力感といった「非認知能力」の差は縮まりにくく、進学する高校の質にも差が残ることを報告しています。差は仕組みが生むもので、宿命ではない。でも、放置すれば積み重なる——それがデータの示す像です。
この研究たちが言えないこと
公平のために、逆のことも書いておきます。
まず、「頂点での逆転」の研究は、最後まで生き残った選手だけを見ています。途中でやめていった大勢の早生まれは、データに写っていません。だから「早生まれのほうが強くなる」とは言えません。逆転という現象そのものが、厳しい選抜を生き残った者同士を比べたときに見かけ上生じるだけではないか、という批判もあります[10]。エリートサッカーでは、学年後半生まれの選手が市場価値で上回るとは確認できなかったという報告もあります[11]。
そしてもう一つ。逆転は、やめなかった子にしか起きません。相対年齢効果の一番の実害は、身体の差ではなく、選ばれない経験が積み重なって早生まれの子が競技から離れていくこと(ドロップアウト)にある——という指摘があります。フランスの男子サッカーではドロップアウトした子に学年後半生まれが目立って多く[12]、カナダのユースアイスホッケーでは、学年最後の四半期に生まれた子は最初の四半期に生まれた子より17%やめやすいという報告があります[13]。ここが、親にできることに直結します。
家庭でできること
論文を読んで、私が変えたことは4つです。
- 選抜の結果を「才能の判定」と読まない。 ユース年代の選抜は、実力のつもりで生まれ月を測っていることがあります。落ちた事実は、その子の天井を何も語りません
- 比べる相手を「同学年の子」から「昨日の本人」に変える。 学年内の比較は物差し自体が歪んでいます。伸びたかどうかは本人の過去とだけ比べる
- 「やめない」を最優先の目標にする。 逆転はやめなかった子にしか起きません。楽しいから続く、が全ての土台です
- 体格が要らない武器を磨く時期だと捉え直す。 ボールの見方、状況の読み、技術の精度。体で勝てない時期は、あとで効く能力を先に積む時期でもあります(このサイトの別の棚で、詳しく扱っていきます)
早生まれの子の親にできるのは、選ばれる日を早めることではなく、選ばれる日まで本人が競技を好きでいられるようにすること——論文を読み終えて、私はそう結論しました。
- Cobley S, Baker J, Wattie N, McKenna J. Annual age-grouping and athlete development: a meta-analytical review of relative age effects in sport. Sports Medicine. 2009;39(3):235-256. PubMed
- Gil SM, Bidaurrazaga-Letona I, Larruskain J, Esain I, Irazusta J. The relative age effect in young athletes: A countywide analysis of 9–14-year-old participants in all competitive sports. PLoS One. 2021;16(7):e0254687. PubMed
- Smith KL, Weir PL, Till K, Romann M, Cobley S. Relative age effects across and within female sport contexts: a systematic review and meta-analysis. Sports Medicine. 2018;48(6):1451-1478. PubMed
- Gibbs BG, Jarvis JA, Dufur MJ. The rise of the underdog? The relative age effect reversal among Canadian-born NHL hockey players. International Review for the Sociology of Sport. 2012;47(5):644-649. DOI
- Fumarco L, Gibbs BG, Jarvis JA, Rossi G. The relative age effect reversal among the National Hockey League elite. PLoS One. 2017;12(8):e0182827. PubMed
- Bjerke Ø, Pedersen AV, Aune TK, Lorås H. An inverse relative age effect in male alpine skiers at the absolute top level. Frontiers in Psychology. 2017;8:1210. PubMed
- Ishigami H. Relative age and birthplace effect in Japanese professional sports: a quantitative evaluation using a Bayesian hierarchical Poisson model. Journal of Sports Sciences. 2016;34(2):143-154. PubMed
- サカイク編集部. トレセンの選考基準は? 早生まれは不利? 選ばれなかったらプロになれない? 日本サッカー協会に聞く「トレセン」の目的. サカイク. 2026年3月12日公開. 記事
- Yamaguchi S, Ito H, Nakamuro M. Month-of-birth effects on skills and skill formation. Labour Economics. 2023;84:102392. DOI
- Swartz T. The "reversal" of the relative age effect. Research & Investigations in Sports Medicine. 2022;8(3). DOI
- Doyle JR, Bottomley PA. Relative age effect in elite soccer: More early-born players, but no better valued, and no paragon clubs or countries. PLoS One. 2018;13(2):e0192209. DOI
- Delorme N, Boiché J, Raspaud M. Relative age and dropout in French male soccer. Journal of Sports Sciences. 2010;28(7):717-722. PubMed
- Lemez S, Baker J, Horton S, Wattie N, Weir P. Examining the relationship between relative age, competition level, and dropout rates in male youth ice-hockey players. Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports. 2014;24(6):935-942. PubMed
本記事は論文に基づく一般的な情報提供であり、個別の指導・診断に代わるものではありません。お子さんの体や心について気になることがあるときは、専門家にご相談ください。