ジュニアスポーツの科学ノート
うちの子のために、論文を読みました
発育発達 2026-09-16 ・ 三田村あきら

男子チームにいた女の子は、どこへ行ったのか——「いつから差が出るか」を調べたら、別の話でした

息子のチームには、女の子がいました。うまい子もいました。男の子を抜いてシュートまで行く子を、私は何度も見ています。

数年たって気づくと、その子たちはいなくなっていました。女子チームへ移ったか、やめたか。そのどちらかでした。

「女の子は、中学になれば差がつくから」。そう言われると、私もそうだろうと思っていました。大人のサッカーを見れば、男女の差は誰の目にも明らかです。だから私は、いなくなったことの理由も、差だと思っていたのです。

この記事は、「いつから差が出るのか」を調べ始めて、別のものに行き着いた話です。

先に結論を書きます。大人のトップどうしでは、差は明らかです。 2016年、なでしこジャパンが男子高校生との練習試合で0-12で負けています。大人でこれだけ違うのなら、女の子は男子チームに残れなくなっていくはずです。実際、そのとおりでした。男子チームに残り続けた女の子は、いませんでした。 では、みんなやめてしまったのかというと、そうではありません。5人に4人は続けています。ただし、続けるには移るしかありません。 差の大きさを調べるつもりが、人の出入りを数えることになっていました。私が見ていたのは、能力の差ではありませんでした。誰が入ってきて、誰が出ていくかでした。

この記事では、2つのことを分けて見ていきます。ひとつは「差が開くこと」。もうひとつは「いなくなること」。私はこの2つを、同じものだと思っていました。

この記事の軸になる論文
ノルウェーの陸上競技の登録選手を、11歳から18歳まで1歳刻みで並べた研究(2015年発表・ノルウェーで実施)。各年齢の上位100人(男子1,373名・女子1,149名)の60m走・800m走・走幅跳・走高跳の記録を比べました。11〜12歳までは男女の記録がほぼ同じで、それを過ぎると差が開いていきます。60m走の差は、11歳で1.5%、18歳で10.3%でした。
Tønnessen E, Svendsen IS, Olsen IC, Guttormsen A, Haugen T. Performance development in adolescent track and field athletes according to age, sex and sport discipline. PLoS ONE. 2015;10(6):e0129014.[1]

差が開くのは、いつからか

軸にした研究[1]は、ノルウェーの陸上競技で、11歳から18歳まで、年齢ごとの上位100人の記録を男女で比べたものです。11歳の60m走では、男子と女子の差は1.5%。これが18歳では10.3%になります。走幅跳や走高跳でも、同じ形で差が開いていきました。

言えるのはここまでです。11〜12歳までは記録がほぼ同じで、そこから差が開く。これは陸上の走る・跳ぶの記録であって、サッカーの試合ではありません。そしてもうひとつ、大事な但し書きがあります。これは各年齢の上位100人どうしを比べた数字です。町のチームにいる子どうしの比較ではありません。

それでも、この研究が教えてくれることがあります。小学生年代では、平均に差があっても、上と下は大きく重なっている、ということです。女の子が、チームの多くの男の子より速い。そういう場面は、珍しいものではありません。私が見ていた、男の子を抜いてシュートまで行く女の子は、ありえない存在ではなかった。早生まれの記事で書いた「平均と、その子は別」と、同じことです。

では、その子たちは、差が開いたからいなくなったのでしょうか。

0-12は、本当に起きました

先に、差の実在を疑わないために、大人の話を書いておきます。

2016年12月、なでしこジャパンは合宿中の練習試合で、静岡学園の男子高校生に0-12で負けました[2]。薄めずに書きます。相手のスピードについていけず、ボールを持つことすらほぼできなかったと報じられています。先発したDFの佐々木繭選手は「女子であの速さはないので…。アメリカとも違う」と語っています。

ただし、これは比べるために設計された試合ではありません。高倉麻子監督は「あまりにも、でしたね」と目を潤ませたあと、「つなぐサッカーと想定していたのに」と述べています。狙いはビルドアップ——自分たちの陣地から短いパスをつないで攻撃を組み立てていくこと——と連係の確認で、スコアを争う試合ではなく、相手選びを誤った。監督自身が「マッチメークのミス」を認め、「ストレスをためちゃったかな。今後は私自身、相手選びも勉強しながらやらなきゃいけない」と反省を口にしています。佐々木選手は「この経験を次に生かしたい」と前を向いていました。

大人のトップどうしで、差は自明です。ここは動きません。問題は、その自明さを、子どもにそのまま当てはめていいのか、です。

大人になれば差は自明です。だから私たちは、子どものいまの差も自明だと思ってしまいます。

制度は、分けていません

私は、中学になると制度で男女が分けられるのだと思っていました。調べてみると、そうではありませんでした。

日本サッカー協会は、チームの種別を6つに分けたうえで、「全てのチームに女子選手は入ることができる」と書いています[3]。さらに2006年3月の理事会で参加資格が見直され、女子チームに所属したまま、中学校のサッカー部の部員として全国大会に出られるようになりました[3]。全国高校サッカー選手権の大会要項を見ても、参加資格の10項目に性別の限定は書かれていません[4]。「女子が出られる」と書いてあるわけでもなく、書かれていない、というのが正確なところです。

つまり協会は、分ける方向ではなく、混ざれる方向に規則を変えています。

それでも、高校生年代で男子の種別に登録している女子は、全国で106人です。女子の高校生選手全体の0.86%にあたります[5]。制度は禁じていない。それでも、ほぼ誰もいない。

私は「残れなかった」のだと思っていました。でも、制度が禁じていないのなら、残れなかったのではありません。残る場所が用意されていなかったのです。

体の差が制度の根拠になっているのだろう、とも思っていました。これも、探した範囲では見つかりませんでした。学校の体育は、そもそも男女で分かれていません。かつては武道を主に男子に、ダンスを主に女子に教える時代がありましたが、1989年に男女とも選択できるよう改められています。その契機として挙げられているのは、1985年の女子差別撤廃条約の批准であり、理由として書かれているのは「地域や学校の実態及び生徒の必要並びに男女相互の理解と協力」でした[6]。体力の差は、出てきません。サッカー協会の公開資料にも、体力差を根拠に分けるという記述は見つけられませんでした。「見つからなかった」であって、「無い」ではありません。そして、だから分けるのが正しいとも正しくないとも、この記事は言いません。それはこの記事の主題ではないからです。

「いなくなる」は、どこで起きているか

では、女の子はどこへ行ったのか。

日本サッカー協会の公表によれば、女子サッカープレーヤーの5人に1人が、13歳になるとサッカーを辞めてしまいます[7]。やめる子は、いる。けれど、5人に4人は続けています。続ける子は、男子チームではなく、女子の環境に移っている。それが、上の0.86%という数字の意味です。

面白いのは、協会自身の書き方です。協会は、登録者数が13〜15歳でへこむことについて、「中体連に加盟している女子選手を合わせると、大きなくぼみがなだらかなものになります」と書いています[8]。つまり、「いなくなった」ように見えていたものの一部は、どこを数えているかの問題でした。協会の登録からは消えても、学校の部活にはいた。私が「いなくなった」と感じたのも、同じことだったのかもしれません。私の目に入る場所から、いなくなっただけなのです。

やめる理由も、調べられている範囲では、差ではなく環境で説明がつきます。山梨県の女子サッカーを調べた報告では、山梨では小学生より中学生の登録者の割合が低いのに、群馬や埼玉では逆に中学生のほうが高くなっていました[9]。近くに女子チームがあるかどうかで、向きが変わるのです。その報告に出てくる指導者の言葉は、「選べない、選択肢が少ない」でした。

誰が入ってくるのか

ここまでは出口の話です。もうひとつ、入口の話があります。

私が知っている範囲では、男子チームにいた女の子は、みんな家にサッカーがありました。お兄ちゃんがやっていたり、家族に経験者がいたり。サッカーは男の子のスポーツだと思われているので、何のきっかけもなく女の子が男子チームの門を叩くことは、めったにありません。

つまり、男子チームにいる女の子は、女の子全体から選ばれた子ではありません。サッカーが身近にある、限られた子たちです。その子たちが、途中で男の子と同じくらい速く走り、あるときいなくなる。私が見ていたのは、能力の差ではなく、誰が入ってきて、誰が出ていくか、だったのです。

なでしこジャパンの選手にも、小学生時代を男子チームで過ごした人がいます。岩渕真奈選手は、小学1年で2歳上のお兄さんのサッカークラブに入り、「男の子に混じって試合に出ていました」と語っています。中学からは日テレ・メニーナという女子のクラブに移りました[10]。入口と、途中と、出口。この記事で書いてきたことが、そのまま一人の中にあります。

わが家の話も書いておきます。娘は、小学2年までサッカーもしていました。やめた理由は、サッカーにあまり興味がなく、ほかの習いごとが忙しくなったからです。能力の話は、どこにも出てきませんでした。

この記事で言えないこと

私の観察は、1チームの話です。0-12は比べるために設計された試合ではなく、2016年の話です。「男子にもまれたから強くなった」も「もまれても強くならない」も、この材料では言えません。残らなかった子を、誰も追跡していないからです。なでしこの選手の小学生時代は、公表されていても伝聞が混ざります。4名調べて、本人の言葉で確認できたのは1名だけでした。軸の論文は陸上の上位100人の話で、サッカーの町のチームの話ではありません。娘がやめた理由は、うちの一例にすぎません。

家庭でできること

  1. 「どうせ中学で差がつく」を、いまの出場機会の理由にしない。 差が開くのは12歳を過ぎてからで、それも上位100人どうしの話です。いま目の前の子が速いなら、速い。出場機会はいまの姿で決めて、中学の話は中学でします
  2. 続ける道が2つあること(このまま/女子の環境)を、差がつく前に調べておく。 続けている子は5人に4人います。ただし、続けるには移るしかない。近くに女子チームがあるか、中学の部活に入れるか、移るならいつからか。やめたいと言われてから探すと、間に合いません
  3. やめたいと言われたとき、「差がついたから」と決めつけない。 理由は環境かもしれないし、興味かもしれない。わが家はそうでした。まず、本人の言葉を聞きます。「差がついた」と親が先に言ってしまうと、子どもも、そう思って去ることになります

いなくなった子たちは、消えたのではありません。私の見ていない場所で、続けています。

## 参考文献
  1. Tønnessen E, Svendsen IS, Olsen IC, Guttormsen A, Haugen T. Performance development in adolescent track and field athletes according to age, sex and sport discipline. PLoS ONE. 2015;10(6):e0129014. DOI
  2. 成田光季. なでしこが静学に屈辱12失点、高倉監督目潤ませ…. 日刊スポーツ. 2016年12月8日(紙面から). nikkansports.com
  3. 公益財団法人日本サッカー協会. 女子サッカーあれこれ(なでしこvision). JFA(2026年8月22日閲覧)
  4. 公益財団法人日本サッカー協会. 第104回全国高等学校サッカー選手権大会 大会要項(参加資格). JFAサイト掲載(2026年8月22日閲覧)
  5. 公益財団法人日本サッカー協会. 種別区分別男女区分別登録数集計表(2022年3月末現在)2021年度 全国. PDF
  6. 内閣府男女共同参画局. 男女共同参画白書 令和元年版. コラム2 学習指導要領における技術・家庭,保健体育の変遷. 内閣府
  7. アディダス ジャパン株式会社・公益財団法人日本サッカー協会. 5年間で全国88チームが誕生 6年目の取り組みで女子サッカーの未来を加速 アディダス・JFA共同プロジェクト『HER TEAM』2025年度募集開始(共同プレスリリース。「2025年現在、JFA登録に基づく」). JFA
  8. 公益財団法人日本サッカー協会. 中学生年代の女子選手の現状(女子サッカーの日2022 リーフレット). PDF
  9. 沼倉しおり. 女子サッカーにおける競技継続の現状と課題——山梨県女子サッカー競技を中心に——. 山梨大学教職大学院 令和5年度 教育実践研究報告書. 2024:111-118.
  10. 私が10代だった頃 岩渕真奈(元日本代表女子サッカー選手). ETHICS for YOUTH. インタビュー

本記事は論文に基づく一般的な情報提供であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。お子さんについて気になることがあるときは、専門家にご相談ください。

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