小さいままなのか、まだなのか——遅れているのは身長だけではありませんでした
中学2年の1年間で、身長が10センチ以上伸びました。
当時の私は、バレーボール部にいました。待っていた伸びの、はずでした。ところが、その時期のこととしてよく覚えているのは、スパイクのタイミングが合わなくなったことです。バレーボールのスパイクでは、ラリーの中でまったく同じトスは来ません。だから助走に緩急をつけて調整し、ジャンプのタイミングだけは一定に保って打ちます。その、一定だったはずのものが崩れました。打点が少し変わったように感じて、タイミングの合わない時期が一時的にありました。体が伸びた分だけ、覚えたタイミングがずれました。伸びたのに、できなくなったのです。
小学生のころの私は、サッカーチームで補欠でした。親からは「中学で伸びるよ」と言われていました。以前、早生まれの記事で、同学年の中の体格差には「生まれ月の差」と「成長のタイミングの差」という別々の原因があり、後者はそれだけで一本の記事になる、と書きました。この記事がその一本です。
「そのうち伸びる」。わが子の体の小ささを心配する親が、いちばんよく言われ、そして自分でもいちばんよく言う言葉だと思います。今回はこの言葉を、言われていた側と、いま言っている側の両方から、確かめに行きました。
先に結論を書きます。
- 「まだ」なのか「ずっと」なのかは、いまの身長からは分かりません。ただ、体が大人に近づき始める時期は、父からも母からも受け継がれることが、大規模な研究で確かめられていました。親自身の記憶は、ここで初めて出番が来ます
- 私は、伸びても、すぐに強くなった実感は来ませんでした。ただし研究では、力の伸びのピークは身長の伸びのピークとほぼ同時——ずれても前後6か月以内——とされています。遅れて来たのは力ではなく、力を使いこなすための「チューニング」だったのかもしれません
- 「伸びている最中は動きがぎこちなくなる」という説も、調べた範囲では、支持されていませんでした。私に起きたことが、みんなに起きるわけではないようです
女の子672人・男の子846人を年1回の診察で追いかけ、体が大人に近づき始める時期が、親の思春期のタイミングとどう関係するかを調べた研究(2016年発表・デンマーク)
Wohlfahrt-Veje C, et al. Pubertal Onset in Boys and Girls Is Influenced by Pubertal Timing of Both Parents. The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism. 2016;101(7):2667-2674.[1]
親の「時期」は、子に受け継がれていました
軸にした研究[1]は、デンマークの子どもたちを年に1回診察して、体が大人に近づき始める時期を、本人や親の印象ではなく診察の記録で押さえました。あわせて親には、自分自身の思春期が同級生と比べて「早かった・同じくらい・遅かった」のどれだったかを尋ねました。
結果はこうでした。親の時期が早かった家の子は、体が大人に近づき始める時期も早い傾向がありました。差は集団の平均で、およそ7か月から1年。そしてこの関連は母親の側からだけではなく、父親の側からも、同じようにはっきり出ていました[1]。この研究から言えるのは、「始まりの時期は、親から子へある程度受け継がれる」——ここまでです。
私が言われていたのは「中学で伸びるよ」でした。父は「自分も中学で伸びた」と言っていました。当時は、励ましの決まり文句だと思って聞いていました。論文を読んだいまは、違う聞き方をしています。「そのうち伸びる」は、慰めではありませんでした。父も、中学で伸びていたからです。
ただし、測っていたのは身長ではありません
ここは正直に分けて書きます。この研究は、身長を測った研究ではありません。「身長がいちばん伸びる時期」そのもので親子の関連を調べた研究は、見つけられませんでした。日本の子どもで確かめたデータも見つかりませんでした。親の側も、数十年前の記憶を三択で答えてもらう粗い測り方です。
だから、「親の記憶から、子どもの身長がいつ伸びるかを予測できる」とは書けません。書けるのは、「体が大人に近づき始める時期が親からも受け継がれること自体は、大規模な研究でしっかり確かめられている」——そこまでです。
伸びても、すぐには強くなりませんでした——私の場合は
中2で10センチ以上伸びたあと、「強くなった」という実感は、すぐには来ませんでした。力がついた、と感じられたのは、そのあとです。「そのうち伸びる」の「そのうち」のあとに、もう一段、待つ期間がある——私は長いあいだ、そう思っていました。
ところが、研究は少し違うことを言っています。男子バスケットボール選手160人を、思春期のあいだ繰り返し測り続けた研究があります[2]。身長といくつかの種類の力を測り、それぞれの「伸びる速さがいちばん上がる時期」を、身長のピークを基準にそろえて比べました。結果、力の伸びのピークは、身長の伸びのピークとほぼ同時でした。ずれても、前後6か月以内です[2]。
実感と研究が食い違います。ただ、いまはこう考えています。力そのものは、研究の言うとおり、体が大きくなるのと一緒に来ていたのだと思います。遅れて来たのは力ではなく、その力を使いこなすほう——伸びた体に、覚えてきた動きを合わせるチューニングです。スパイクのように、助走とジャンプと打点をそろえる複雑な動きほど、チューニングには時間がかかります。「強くなった」という実感がすぐに来なかったのは、力がまだ来ていなかったからではなく、来ていた力を、まだ使いこなせていなかったから。そう考えると、私の記憶と研究は両立します。ただし、これは私の解釈です。研究が確かめてくれているのは、「力の伸びのピークは身長の伸びのピークとほぼ同時」——そこまでです。「身長のあとに力が来る」を、誰にでも当てはまる話として書くことは、できません。
私は動きが合わなくなりました。研究の答えは「向上する」でした
導入のスパイクの話に戻ります。「伸びている最中は、一時的に動きがぎこちなくなる」という説があります。私には自分の体験があるので、これを疑ったことがありませんでした。
調べてみると、研究の題そのものが問いになっていました——「思春期の運動能力は、ぎこちなくなるのか、それとも向上するのか」[3]。60人の子どもと若者に13種類の動きの課題をやってもらい、思春期の前・最中・あとで成績を比べた研究です。答えは「向上する」。運動の成績は、男女とも思春期を通じて上がっていました[3]。
私は、打点が合わなくなりました。それは事実で、いま思えば、伸びた体へのチューニングの途中だったのだと思います。でも、私に起きたことが、みんなに起きるわけではないようです。伸びている最中のお子さんの動きが崩れて見えなくても、それが普通なのかもしれません。逆にもし崩れて見えても、私という前例では、チューニングが済むまでの一時的なものでした。
中学で、場がやり直されました
小学校のサッカーは、幼稚園や低学年から続けている子たちの中に、あとから入っていく場でした。私はそこで、試合に出られない子でした。中学で始めたバレーボールは、ほぼ全員が同じ時期に始める部活でした。私はそこでは、試合に出続けました。
「伸びたから並んだ」。そう書きたくなります。でも、書けません。体が来たのと同じ時期に、競技も、周りの顔ぶれも変わっているからです。体のおかげなのか、全員が同じスタートラインに立ち直したおかげなのか、両方なのか、私には分けられません。ただ、成長がゆっくりな子の前に「全員が同時に始める場」がもう一度あらわれることには、意味があると私は思います。
なお、試合に出られる・出られないがそもそも何で決まるのかは、それだけで一本になる話なので、別の記事として準備しています。
この記事で言えないこと
- 私がバレーで試合に出られた理由は、分けられません。競技が変わっているので、「伸びたから並んだ」とは言えません
- 伸びている最中に動きが合わなくなるとは限りません。研究の答えはむしろ「思春期を通じて向上する」でした[3]。打点のずれは、私に起きた、というだけの話です。「力は来ていて、チューニングに時間がかかった」という説明も、私の解釈であって、研究で確かめられたものではありません
- 親がいつ伸びたかという手がかりは、確率の話であって、保証ではありません。親が遅くても早く来る子も、その逆も、普通にいます
- 「およそ7か月から1年」は集団の平均であって、ひとりの子の予測ではありません。早生まれの記事で「約3倍」という数字に添えたのも、同じ注意でした。あれも大勢の子どもを比べたときの傾向であって、目の前のひとりの子がどうなるかを言い当てる数字ではありません
- 軸の研究[1]はデンマークのもので、測っているのは身長ではありません。[2]はバスケットボール選手の、[3]は60人・2000年の研究です。どの子にもそのまま当てはまるとは限りません
- うちの息子が「まだ」なのか「ずっと」なのかは、書きません。子どもの成長の見通しは、親が公開するものではないと決めているからです
家庭でできること
論文を読み終えて、わが家で決めたことは3つです。
- 親自身が、いつ伸びたかを思い出す。 父親の側と母親の側の両方です。祖父母に聞けるなら、聞いてみてください。ただし、出てきた答えは予測ではありません。集団の平均でおよそ1年ぶんの、「まだ待っていていいらしい」と思うための手がかりです
- 身長を、定期的に測って記録する。 見るのは「いま何センチか」ではなく、「この1年で何センチ伸びたか」です。伸びる速さが上がり始めたら、その子の順番が来たということです。「身長がいちばん伸びる時期」が子どもごとに何年もずれることは、ゴールデンエイジ(子どもなら何でもすぐ身につく時期、という言われ方です)を調べ直した記事で書きました
- 伸びている最中は、力と「うまさ」の評価をいったん保留する。 私のタイミングのずれは一時的でした。伸びの真っ最中の出来だけで、その子の実力を決めないでおく。評価は、伸びが落ち着いてからでも間に合います
気づけば私は、息子に2つのことを言っています。「そのうち伸びる」と、「栄養はしっかり摂りなさい」です。前のほうは「いつ来るか」の話で、待つしかありません——この記事で書いたことです。後のほうは「最終的にどこまで伸びるか」の話で、少しだけ手が打てます——身長の記事で書いたことです。父が私に言ったのと同じことを、私はいま、自分の子に言っています。
- Wohlfahrt-Veje C, Mouritsen A, Hagen CP, et al. Pubertal Onset in Boys and Girls Is Influenced by Pubertal Timing of Both Parents. The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism. 2016;101(7):2667-2674. PubMed
- Guimarães E, Maia JAR, Williams M, et al. Muscular Strength Spurts in Adolescent Male Basketball Players: The INEX Study. International Journal of Environmental Research and Public Health. 2021;18(2):776. PubMed — 力の伸びの速さのピークは、身長の伸びのピークと同時か、前後6か月以内(種目により6か月前〜6か月後)
- Davies PL, Rose JD. Motor skills of typically developing adolescents: awkwardness or improvement? Physical & Occupational Therapy in Pediatrics. 2000;20(1):19-42. PubMed
本記事は論文に基づく一般的な情報提供であり、診断や個別の医療上の助言に代わるものではありません。お子さんの成長や発達について気になることがあるときは、小児科などの専門家にご相談ください。