ジュニアスポーツの科学ノート
うちの子のために、論文を読みました
発育発達連載: 昔の常識と現代の科学 2026-08-22 ・ 三田村あきら

子供の身長を伸ばす因子——変えられるもの、変えられないもの、医療にまかせるもの

小学6年生のとき、私の身長は140センチありませんでした。

幼稚園のころから、学年でいちばん小さい子どもでした。それが、ずっと嫌でした。だから私は牛乳を大量に飲み始め、「ジャンプする競技をやると背が伸びる」という噂を聞いて、中学からバレーボールを始めました。バレーを選んだ理由の何割かは、間違いなく身長でした。

結果だけ言えば、私は約170センチ——日本人男性の平均あたり——まで伸びました。当時の私は「牛乳とバレーが効いた」と信じていました。そして同時に、逆向きの噂も信じていました。「体操をやると、筋肉がつきすぎて背が止まる」。伸ばす噂と止める噂を、両方とも疑わずに飲み込んでいたのです。

うちの息子も、学年では小さいほうです。ただ、本人は私が子どものころほど気にしている様子はありません。気にしているのは、自分の子ども時代を覚えている私のほうです。そこで今回は、長年の疑問——あの牛乳とバレーは効いたのか——を、論文で確かめに行くことにしました。

先に、調べ終えたあとの整理を置いておきます。身長の大部分は、変えられません。それでも環境の余地は確かに存在しました。そして、お金で買える「伸ばす方法」の多くには、「効きそうな理屈」はあっても「実際に伸びた記録」が見つかりませんでした。 変えられないもの、変えられるもの、そして医療にまかせるもの。この順番で分けていきます。

この記事の軸になる論文
40の双子研究・14万組を超える双子のデータで、1886〜1994年生まれの身長に対する遺伝と環境の影響を調べた研究(2016年発表。20か国40コホートの双子データの統合で、欧州・北米・豪州・東アジアを含みます)
Jelenkovic A, et al. Genetic and environmental influences on adult human height across birth cohorts from 1886 to 1994. eLife. 2016;5:e20320.[1]

まず、「変えられないもの」の大きさから

身長は、遺伝の影響がとても大きい特徴です。それを最も大きな規模で確かめたのが、軸に置いた研究です[1]。世界40の双子研究から14万組を超える双子のデータを集め、身長の個人差がどこから来るのかを調べました。双子を使うのは、遺伝子をほぼ共有する一卵性の双子と、きょうだいと同じ程度に共有する二卵性の双子を比べることで、遺伝の影響の大きさを見積もれるからです。

結果は、身長のばらつきの7割前後から8割ほどが遺伝で説明される、というものでした(男性で0.69〜0.84、女性で0.53〜0.78と、幅があります)[1]。

この数字の読み方を、2つ添えておきます。第一に、これは「集団の中の個人差のうち、遺伝で説明できる割合」であって、「お子さんの身長の8割は生まれた瞬間に決まっている」という意味ではありません。集団の統計は、個人の予言ではありません。第二に——ここがこの論文のいちばん面白いところなのですが——1886年生まれから1994年生まれまで、100年あまりの間、この割合にはっきりした変化のパターンは見られませんでした[1]。この一文の意味は、あとの節で効いてきます。

「いつ伸びるか」も、ほとんど選べません

もうひとつ、変えられないものがあります。伸びる時期です。

子どもの身長は、一定のペースでは伸びません。思春期に、1年で7〜9センチ伸びる急成長の時期が来ます。日本サッカー協会の育成指針『Japan's Way』は、この時期が来るのは「男子は一般的に12〜13歳。早い子は10歳、遅い子は16歳まで幅がある。女子は男子より約2年早い」と説明しています[2]。この急成長の標準を最初に体系的に描いたのは1960年代の英国の古典的研究で[3]、考え方自体は半世紀以上使われてきたものです(ただし、日本の子どもについての上の数値と幅を直接裏づける学術研究には、まだたどり着けていません)。

親として大事なのは、幅のほうです。同じ学年の中に、急成長がもう来た子と、これから何年もあとに来る子が混ざっています。 いま小さいことと、最終的にどこまで伸びるかは、別の話です。早生まれの記事で書いた「いま」と「最終到達点」の区別が、ここでもそのまま出てきます。

それでも、環境の余地は実在しました

「7〜8割が遺伝なら、あとは何をしても誤差では?」——私も最初はそう読みかけました。ここで、さきほどの一文が効いてきます。遺伝の取り分は、100年間ほぼ変わっていない。では、その100年のあいだに、身長そのものはどうなったでしょうか。

文部科学省が終戦直後から毎年続けている学校保健統計があります[4]。

戦後の76年間で、17歳男子の平均身長は
約10cm
伸びました(160.6cm → 170.8cm)
出典: 文部科学省・学校保健統計[4]。昭和23(1948)年度160.6cm→令和6(2024)年度170.8cm。全体の約5%を対象とする抽出調査。令和2〜5年度は測定時期の違いにより他年度と比較できないと資料に明記されています。数値は「17歳の平均身長」であり、最終身長そのものではありません。

日本人の遺伝子が76年で入れ替わったわけではありません。変わったのは、栄養や生活環境の側です。遺伝の取り分が大きいことと、環境しだいで集団全体が動くことは、矛盾しないのです。

ただし、この統計には続きがあります。資料自身がこう書いています——「身長の平均値は、多くの年齢層で男女とも平成10年度前後にかけて上昇し、その後横ばい傾向」[4]。伸びて、そして1990年代の後半に止まった。環境の余地は確かにありました。でも日本では、栄養状態の改善という、いちばん大きな余地の多くをすでに使い終えたのかもしれません。「環境で変えられる」は、「どの家庭にも、まだ大きな上積みが残っている」を意味しませんでした。

「バレーで伸びる」と「体操で止まる」——矢印の向きを確かめる

私が信じていた2つの噂は、よく見ると同じ形をしています。「バレー選手は背が高い。だからバレーをやると伸びる」。「体操選手は小柄。だから体操をやると止まる」。どちらも、競技と体格がセットで観察されることから、競技→体格という向きの矢印を読み取っています。でも、矢印は逆かもしれません。背の高い子がバレーで残りやすく、小柄な子が体操で残りやすいだけかもしれない。

体操については、国際体操連盟が招集した委員会が、それまでの研究をまとめてレビューしています[5](競技団体の招集した委員会によるレビューである、という立場は踏まえて読む必要があります)。結論は、集中的な体操の訓練が最終身長を損なうことを示す証拠はない、急成長の時期やペースを遅らせる証拠もない、というものでした。そして本文には、競技を続けた子どもたちは「もともと選び抜かれた集団」であり、その成長のパターンは体操をしていない、小柄で成長の遅いタイプの子どもたちと同じだった、とあります。「体操が止めた」のではなく、「小柄な子が体操に残った」。子どものころの私の疑問——体操のトップ選手はみんな小柄。伸びなかったのか、小さい子が残ったのか——には、後者の側で決着がついていました。ただしこのレビューは、ホルモンのはたらきへの影響については「判断できるデータが足りない」とも明記しています。データが女子に偏っている点も含めて、すべてが決着したわけではありません。

では、伸ばす側の「バレーで伸びる」はどうか。これを直接確かめた研究を、私は見つけられませんでした。 確かなことはひとつだけです。同じ形の噂のうち、「止める」側は否定される方向で決着し、「伸ばす」側は検証されないまま残っている。中学の私がバレーに賭けた理屈は、いまも証拠がないままです。

「効きそうな理屈」と「伸びた記録」は、別のものです

ここからが、この記事でいちばん書きたかったことです。「伸ばす」とされるものには、2種類の話が混ざっています。なぜ効くはずなのかという「効きそうな理屈」と、実際に何センチ伸びたのかという「伸びた記録」です。

牛乳には、記録があります。牛乳・乳製品を足す比較試験12件をまとめた分析では、1日コップ1杯強(約245ミリリットル)の追加で、その年の伸びが0.4センチほど多くなっていました[6]。ただしこれは「その1年の伸び」であって最終身長への効果ではなく、効果がはっきり出ていたのは、もともと背が低めの子と10代の子。証拠の質も、著者自身の評価で「中程度」です。それでも牛乳は、センチという記録で測られた数少ない例です。

睡眠は、理屈だけが確かめられています。寝ている間に多く分泌され、骨の成長を促す方向に働くホルモン(成長ホルモン)の分泌が深い眠りに合わせて起きることは、ヒトの実験で示されています[7]。では、「よく寝た子は、最終的に何センチ高くなったのか」——私はその研究を見つけられませんでした。 探すと出てくるのは、体重や肥満の研究ばかりでした。

では、サプリメントはどうでしょうか。ドラッグストアや通販には、子どもの身長を伸ばす効果をうたう商品——いわゆる「身長サプリ」——が並んでいます。調べると、牛乳のような「伸びた記録」はなく、「効きそうな理屈」の側も確かめられていませんでした。子どもの成長とホルモンの専門家である日本小児内分泌学会の一般向け見解[8]は、カルシウム・鉄・ビタミンD・亜鉛などのサプリメントについて、栄養成分の「不足がない場合には」成長を促すという科学的データはないとしています。成長ホルモンの分泌を促すとされる物質にも信頼できる学術誌への報告はありません。成長ホルモンを含むとうたうスプレーも、学会は「口や鼻からはほとんど吸収されない」としています。注目したいのは「不足がない場合には」という条件です。不足があるなら話は別で、見極めができるのは広告ではなく、検査ができる病院です。

広告は「効きそうな理屈」で売り、科学は「伸びた記録」で測ります。 正直に書くと、わが家にもジュニア用のプロテインやサプリメントはあります。何かしてやりたくなる気持ちは、元・小6の私にはよく分かります。だからこそ、この物差しを手放したくないのです。

医療にまかせるもの

最後の区分です。世界的なサッカー選手が、子どものころに成長ホルモンの分泌が足りないと診断され、治療を受けていたことは広く知られています。ここで大事なのは、この話は「成長ホルモンのサプリが効く」ことの根拠にはならない、ということです。順序が逆です。まず病院で検査があり、診断があり、そのうえで医療としての治療がある。診断がないまま「成長ホルモン」という言葉の理屈だけを借りてくるのが、前の節で見た広告の側です。

じつは、わが家も病院に相談した側です。伸びについての心配を持ち込む場所として、検査の手段と判断の材料を持っているのは病院だけです。治療が必要かどうか、何かが足りていないのかどうかを決めるのは、広告でも親の勘でもなく、病院です。

この記事で言えないこと

遺伝の「7〜8割」は集団の統計であり、個々の子どもの予測ではありません。17歳の平均身長は抽出調査の値で、最終身長そのものでもありません。牛乳の「+0.4センチ」はその年の伸びであり、最終身長への効果は確かめられていません。体操のレビューは、ホルモンのはたらきへの影響を「判断できるデータがない」としています。そして「よく寝た子が何センチ伸びたか」の研究は、「存在しない」のではなく、私が「見つけられなかった」——この区別も、正直に残しておきます。

家庭でできること

論文を読み終えて、わが家で決めたことは5つです。

  1. 成長曲線を、今日からつける。 学校の測定結果を、母子手帳やアプリの成長曲線に年数回写します。見るのは他の子との比較ではなく、その子自身の線が、曲線に沿って進んでいるか。急成長がいつ来るかには何年もの幅があるので[2]、「いま小さい」は「伸びない」を意味しません。線から大きく外れる・急に横ばいになる、は病院に相談する強い材料です
  2. 睡眠は「伸ばすため」ではなく、時間の一線として守る。 米国睡眠医学会の推奨は6〜12歳で9〜12時間、13〜18歳で8〜10時間[9]。伸びた記録は見つけられませんでしたが、睡眠時間そのものが学習や体調の土台です
  3. 牛乳は「大量に足す」より「欠かさない」。 記録が示すのはコップ1杯強で年0.4センチほどまで[6]。量に賭ける根拠も、嫌いな子に無理やり飲ませる根拠もありません。飲めないなら、食事全体で不足を作らないことのほうが本筋です
  4. 財布を開く前に、「伸びた記録」を1つ探す。 理屈の言葉が並んでいたら、「それで、何センチ伸びたのですか」と問い直す。学会の見解[8]は誰でも読めます。見つからなければ、それが答えです
  5. 心配が続くなら、成長曲線を持って小児科へ。 経過を見てよいのか、治療の相談が必要なのかを判定できるのは病院だけです。1でつけた記録は、そのまま診察室で使えます

私の牛乳とバレーが効いたのかは、いまも分かりません。ただ、当時の私を動かしていたものが科学でなかったことだけは、はっきり分かりました。

## 参考文献
  1. Jelenkovic A, Hur YM, Sund R, et al. Genetic and environmental influences on adult human height across birth cohorts from 1886 to 1994. eLife. 2016;5:e20320. PubMed
  2. 公益財団法人日本サッカー協会 技術委員会. Japan's Way. 第2版. 2026年1月. 誌面p.36(身長急成長期の年齢と幅).
  3. Tanner JM, Whitehouse RH, Takaishi M. Standards from birth to maturity for height, weight, height velocity, and weight velocity: British children, 1965. Parts I–II. Archives of Disease in Childhood. 1966;41(219):454-471, 41(220):613-635. PubMed(I) / PubMed(II)
  4. 文部科学省. 令和6年度学校保健統計(学校保健統計調査の結果)確定値. 2025年2月公表. 資料(PDF)
  5. Malina RM, Baxter-Jones ADG, Armstrong N, et al. Role of intensive training in the growth and maturation of artistic gymnasts. Sports Medicine. 2013;43(9):783-802. PubMed
  6. de Beer H. Dairy products and physical stature: a systematic review and meta-analysis of controlled trials. Economics and Human Biology. 2012;10(3):299-309. PubMed
  7. Sassin JF, Parker DC, Mace JW, Gotlin RW, Johnson LC, Rossman LG. Human growth hormone release: relation to slow-wave sleep and sleep-waking cycles. Science. 1969;165(3892):513-515. PubMed
  8. 日本小児内分泌学会 理事会. 身長を伸ばす効果をうたうサプリメント等に関する学会の見解. 2013年3月公表・2025年9月最終改訂. 学会サイト
  9. Paruthi S, Brooks LJ, D'Ambrosio C, et al. Recommended amount of sleep for pediatric populations: a consensus statement of the American Academy of Sleep Medicine. Journal of Clinical Sleep Medicine. 2016;12(6):785-786. PubMed

本記事は論文と公的資料に基づく一般的な情報提供であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。お子さんの成長について気になることがあるときは、小児科などの専門家にご相談ください。

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