ジュニアスポーツの科学ノート
うちの子のために、論文を読みました
ケガ予防・安全 2026-09-02 ・ 三田村あきら

子どものヘディングは危ないのか——禁止した国も、しなかった国も、やっていることは同じでした

私がコーチをしていたころ、ヘディングをまったくしない子がいました。

親から「頭が悪くなるから」と言われている、とのことでした。公式戦でもやらないので、ほかの子から文句を言われることもありました。

コーチだった私は、その子に、やれとも、やるなとも言いませんでした。どちらが正しいか、分からなかったからです。指導者講習を受け、資格を持っていたのに、です。

あれから論文と各国の資料を調べました。先に結論を書きます。親が悩むべきは「やらせるか、やらせないか」の二択ではありませんでした。決めるのは「いつ・どの順で・何回」で、その年齢別の目安は、日本サッカー協会(JFA)が2021年から無料で公開しています。

この記事の軸になる論文
元プロサッカー選手7,676人を中央値18年追いかけたところ、認知症などの病気で亡くなる割合は、年齢などを合わせた一般の人の約3.5倍でした(2019年発表・実施国スコットランド)。ただしこの研究は、ヘディングの回数を測っていません。ヘディングをほとんどしないゴールキーパーと、フィールドの選手のあいだに、はっきりした差は出ませんでした。
Mackay DF, Russell ER, Stewart K, MacLean JA, Pell JP, Stewart W. Neurodegenerative Disease Mortality among Former Professional Soccer Players. New England Journal of Medicine. 2019;381(19):1801-1808.[1]

「3.5倍」の研究は、ヘディングを数えていませんでした

各国の協会を動かした軸論文[1]を、もう少していねいに見ます。約3.5倍という数字は、割合そのものに直すと、元選手のおよそ100人に2人です。「元プロ選手の多くが認知症になる」という話ではありません。

同じ論文の中に、見出しになりにくい事実が3つ書かれています。まず、70歳までは、元選手のほうが全体としては死ににくいこと。心臓の病気や肺がんで亡くなる割合はむしろ低く、サッカーをすると早死にする、という話でもありません。次に、ヘディングをほとんどしないゴールキーパーと、フィールドの選手をくらべても、認知症などで亡くなる割合にはっきりした差が出なかったこと(認知症の薬を処方された割合は、キーパーのほうが少なめでした。両方の結果が載っています)。つまりこれは「プロとして長くサッカーをしたこと」の研究であって、「ヘディングをしたこと」の研究ではないのです。最後に、著者たち自身が、今後の研究で確かめられる必要があると明記していること。資金を出したのは、イングランドのサッカー協会とプロ選手会でした。

言えるのはここまで。この研究から「子どものヘディングは危ない」までは、かなりの距離があります。

子どもを直接数えた研究では、「回数」で差が出ませんでした

子どもを直接調べた研究は無いのか。私も「ほぼ無い」と思い込んでいましたが、ありました。

9歳から19歳のサッカー選手を2シーズン追いかけ、練習も試合もすべてビデオに撮って、一人ひとりのヘディングを数えた研究です[2]。結果、頭を使う課題の成績もバランスの検査も、サッカーの子も比較相手の他競技の子も、どちらも伸びていました。そして、ヘディングの総数と成績の伸びのあいだに、関連はありませんでした。

関連が出たのは別のところでした。競り合いでのヘディングと、遠くから飛んできたボールのヘディングが多い子ほど、反応の速さの伸びが小さめだったのです。著者たちは、全体の回数だけでなく、衝撃の強いヘディングに目を向けるべきかもしれない、と結んでいます。問題は「何回やったか」より「どのヘディングか」かもしれない、ということです。

危なかったのは、ボールか、ぶつかり合いか

「どのヘディングか」という問いには、日本の協会の資料が方向を出しています。JFAのガイドライン[3]は、Jリーグで集められたけがの記録から、脳振盪80件のうち29件がヘディングの競り合いで起きていて最も多かったこと、単独のヘディングで脳振盪になったケースは少ないことを挙げ、こう書いています——「ヘディング自体よりも、ヘディングの競り合いによる頭同士や肘、地面等との衝突の怪我のリスクの方が重大であり頻度も高いと考えられる」。

ボールが頭に当たること1回の衝撃は、自動車の衝突安全で使われる基準に照らすと危険領域を下回っている、という記述も同じ資料にあります。子どもを数えた研究で関連が出たのも「競り合い」でした。整理すると、心配は2種類あります。ひとつは、競り合いで起きるその場のけが——脳振盪。ここはデータがはっきりしてきました。もうひとつは、反復が将来に残すかもしれない影響。こちらは「まだ分かっていない」のままです。危なさの中心は、ボールというより、空中のぶつかり合いのようなのです。

禁止した国も、しなかった国も

各国の協会は、証拠が固まるのを待ちませんでした。アメリカのサッカー連盟は2015年に、10歳以下のヘディングを制限しました(連盟の元の文書までは確認できておらず、細部には立ち入りません。制限自体は、JFAの資料にも記載があります[3])。

イングランドのサッカー協会は、試合での子どものヘディングを禁止しました。ただし「何歳以下」と一言で言えません。段階的に広げている途中だからです[4]。2024-25シーズンにU9(9歳以下の年代)から始まり、2025-26でU10、2026-27でU11。試合中に故意にヘディングをすると、その地点から間接フリーキックで再開されます。一方で同じ協会は、禁止していない年代の練習に回数の上限を決めています。U12〜13は1回の練習で5本まで、U14〜16は10本まで[4]。

日本はどうか。JFAは2021年4月にガイドラインを出し、その立場をこう書いています[3]——「ヘディングに関わるリスクを避けるために、『禁止』するのではなく、『正しく恐れ』より適切な方法によるヘディングの習得を目指す」。中身は年代別の段階表です。小さいうちは風船や柔らかいボールをキャッチすることから。小学3・4年生は軽いボールで当て方の練習を始めますが、「ただし、4号球でのヘディングの反復はおこなわない」。推奨のボールも年代別に決まっていて、U-8は3号球、U-10は4号球です。そして練習の回数にも目安があります。

ワンバウンドボールでのヘディング練習の目安(回数/週)
5回 → 10回 → 15回
小学3・4年生 → 小学5・6年生 → 中学生
出典: JFA育成年代でのヘディング習得のためのガイドライン(2021)[3]の年代別表から、ワンバウンドボールの行のみを抜き出して作成。上限ではなく目安です。

並べてみると、禁止したイングランドは禁止の外側で回数を決め、禁止しなかった日本は回数の目安と順序を決めていました。やっていることはほとんど同じで、違うのは、いつから本物のボールに進むかだけ。どちらの協会も、答えを「やるか、やらないか」ではなく「いつ・どの順で・何回」に置いています。

私のいた2つのチームでは

ここで、不思議なことをひとつ。私自身は、小学生のころサッカーチームに入っていて、ヘディングを普通に教わりました。多分、私の年代ではそれが普通だったのだと思います。ただし教わったのは、点が取れるように叩きつけろ、という得点のための技術で、安全のための当て方の話は、記憶にありません。時代の話です。当時の指導を責める気はありません。

一方、私がコーチをしていたチームでは、学年に関係なく、練習でヘディングを教えていませんでした。やらないと決めていたわけではありません。自然とそうなっていて、大人のあいだでその話をきちんとしたことも、ありませんでした。

教わった時代の私と、教えなかったコーチの私。同じ人間の中でも、チームによってここまで違いました。どちらのチームにも、決まりがあったわけではありません。これは私がいた2つのチームの話で、一般論にはできません。ただ、私の2チームでは、教えるかどうかは、決まりではなくその場の大人しだいで決まっていました。同じ学年の子が、隣のチームではまったく違う扱いを受けていても、おかしくないと感じます。

教わっていないのに、試合ではやる

冒頭の子の話に戻ります。あのチームでは、練習で誰も教わっていませんでした。それでも試合ではボールが頭の高さに飛んできて、ほとんどの子はそのまま触りにいきます。先ほどの研究や資料が「競り合い」と「当て方」を気にしていたことを思い出すと、教わらないままやるほうが、むしろ心配な形かもしれません。そんな中で、やらないと決めていたのはあの子だけで、そして文句を言われたのも、あの子だけでした。

2015年にアメリカの制限が報じられたとき、三浦知良選手が取材にこう返しています——「4歳からヘディングしている僕はどうなるんですか?(脳が)揺れているんですか?」[5]。続けて、成長期のリスクを下げる趣旨への理解も、試合でまったくしない難しさも語っています。この短いやりとりに、論点がほぼ全部入っています。「自分は大丈夫だった」ことと、「集団として見ると割合が上がる」ことは、両立します。この構造は、早生まれの記事で書いたものと同じです。

決めなかったつもりでいました

私が受けた指導者講習の教材のことは、「ゴールデンエイジ」を調べた記事でも書きました(子どもなら何でもすぐ身につく時期、という言われ方です)。教材には熱中症のページも脳振盪のページもあり、講習でも扱われました。ヘディングをどう教えるかだけが、教材にも講習にも、ありませんでした。安全の話が届かなかったのではなく、ほかは届いていて、これだけが無かったのです。だから私は、あの子の親に何も言えなかった。分からないと言うことと、何も言わないことは違ったはずなのに、私は黙る側を選んで、それを中立のつもりでいました。

決めなかったつもりでいましたが、教えていない時点で、もう決まっていました。

いま思えば、沈黙が3つ重なっていました。やらない子は、自分からは言わない。ほかの子は、教わらないままやっている。大人は、その話をしない。

この記事で言えないこと

軸にした研究[1]は昔の時代にプロとしてプレーした大人の研究で、ヘディングの回数を測っておらず、いまの子どもにそのまま当てはめることはできません。子どもを数えた研究[2]は高いレベルの選手が対象の観察研究で、見つかった関連も強いものではありません。何かが「原因だ」とは言えません。JFAのガイドライン自身が、ヘディングの反復のリスクについて「科学的な根拠は十分ではない」と書いており[3]、禁止した国と、しなかった国の、どちらが正しかったのかも決着していません。そして、この記事に書いた指導の話は、私がいた2つのチームの例にすぎません。

家庭でできること

コーチだったころの私にできなかったことを、親としてやるなら、この3つです。

1. チームに3つ聞く。「ヘディングは何歳から教えますか」「練習で週に何回くらいやりますか」「どう当てるかは教えていますか」。責めるための質問ではありません。私のいたチームがそうだったように、聞かれて初めて大人の話題になる、ということがありえます。

2. JFAのガイドラインを一度開く[3]。無料のPDFで、何歳で何をやるか、どのボールを使うか、週に何回を目安にするかが、表で見られます。チームの答えとくらべる物差しになります。数字は上限ではなく目安なので、「超えたら危険」と読まないでください。

3. 「頭に当たったら言う」を、子どもと決めておく。頭に当たったことと、いつもと違う感じがすることは、自分から言う——3つの沈黙の1つ目を、家庭で先に解いておく約束です。親の側は、様子がいつもと違うと感じたら医療機関に相談する、と先に決めておく——判断を家庭や現場で抱え込まず、医療者に委ねることが本体です。サッカーの脳振盪については協会の指針もあるので、迷ったらチームや協会に問い合わせてください(見分け方や復帰の判断は、この記事では扱いません。専門家の領域です)。

3つとも、明日の練習の日にできます。最初のひとつは、聞くだけです。

## 参考文献
  1. Mackay DF, Russell ER, Stewart K, MacLean JA, Pell JP, Stewart W. Neurodegenerative Disease Mortality among Former Professional Soccer Players. New England Journal of Medicine. 2019;381(19):1801-1808. DOI
  2. Reeschke R, Dautzenberg L, Mund FK, Koch T, Reinsberger C. Effects of Different Header Types on Neurocognitive and Vestibular Performance in Youth Soccer Players. Medicine & Science in Sports & Exercise. 2025;57(12):2647-2655. DOI
  3. 公益財団法人日本サッカー協会 技術委員会/医学委員会. 育成年代でのヘディング習得のためのガイドライン(幼児期〜U-15)第一版. 2021年4月30日. PDF
  4. The Football Association (England Football). Heading in football / Brain health. England Football
  5. デイリースポーツ. カズ 米国のヘッド禁止に苦笑い. 2015年11月12日. 記事

本記事は論文と公的機関の公開資料に基づく一般的な情報提供であり、診断・治療や個別の指導判断に代わるものではありません。頭をぶつけたあとの様子など、お子さんの体について気になることがあるときは、医療機関・専門家にご相談ください。

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