経験者の親ほど教えられない——「なぜ動かないの?」と思ってしまう私の話
私はいまも、大人のチームでバレーボールを続けています。
相手のスパイクが飛んできて、味方が動けないまま、ボールが床に落ちる。そのとき私は——なぜ動かないの? と思ってしまいました。口には出していません。でも、思ったことは事実です。
私は守備でボールを受ける側の選手で、相手が打つ前に、どこに落ちるかがだいたい分かります。だから、動かない味方が不思議に見える。そして競技経験のある親は、たぶん同じ反射を、わが子のプレーに向けています。なぜ動かないの。なぜ見ていないの。自分はできたのに、なぜ教えても伝わらないのか。
先に結論を書きます。「集中していない」ように見えるものの一部は、やる気の問題ではなく、手がかりがまだその子に届いていないだけです。そして、経験者が教えられることと、教えられないことには線があります。 この記事ではその線を、「立つ場所」と「落ちる場所」という言葉で見ていきます。
クリケットの熟練打者と初心者に、投げられてくるボールの行方を予測させ、「答え方」によって予測の正確さがどう変わるかを調べた実験(2010年発表・オーストラリアで実施)
Mann DL, Abernethy B, Farrow D. Action specificity increases anticipatory performance and the expert advantage in natural interceptive tasks. Acta Psychologica. 2010;135(1):17-23.[1]
うまい人は、ボールが着く前に答えを出しています
オーストラリアの研究チームが、クリケットの熟練した打者と初心者に、実際に投げられてくるボールがどこに来るかを予測させました[1]。違いは「答え方」だけです。口で答えるだけの形から、体の一部で動く形、バットを持って実際に打ちにいく形まで、体の関わりを段階的に深くしました。
結果は、はっきり分かれました。ボールの飛び方がまだほとんど見えない早い段階では、熟練者だけが、体で答えるほど予測が正確になったのです。いちばん当たったのは、実際に打ちにいったとき。初心者では、答え方を変えても予測は良くなりませんでした。
この実験から言えるのは、ここまでです。熟練者の「読み」は、口で説明する形では全部出てこない。体で応える形になって、初めて出てくる。
心当たりがあります。私はスパイクを受けるとき、ボールを「見てから」動いているつもりでいました。でも実際には、打たれる前の相手の体の動きから、行き先を先に読んでいるはずです。そして読んでいることを、自分では「見えている」としか感じられません。「見えている」と「予測できている」は、本人には区別がつかないのです。
どうやってできるようになったのかも、説明できません。中学でもバレーをしていましたが、そのころ読めていた記憶はありません。高校のどこかで、いつのまにか分かるようになっていました。自分でも、どうやってできるようになったか分からないもの——それが、経験者の技術のいちばん深い部分です。私が教えられないのは、教え方が下手だからではありません。教えようとしているものが、そもそも言葉の形をしていないからです。
できる人には、何が見えていないかが見えない
私には相手の体の動きが「見えて」いるので、味方にも見えているはずだと感じてしまいます。見えているのに動かないなら、残る説明はやる気か集中力しかありません。こうして、手がかりの差が、心の問題に読み替えられます。「なぜ動かないの?」という私の反射は、この読み替えそのものでした。
子どものプレーを見る親も、同じ場所に立っています。ボールを目で追うだけで動き出さないわが子に、「集中して!」と声をかける前に、疑う余地がひとつあります。その子には、動き出すための手がかりが、まだ届いていないのかもしれません。届いていないものには、反応できません。
ただし、この見えなさは片側だけではありません。私はバレーでは2流の選手です。超一流の選手には、私に見えていない何かが見えているのかもしれませんが、それが何なのかを私は言えません。何が見えていないかは、見えている人にも、見えていない人にも分かりません。だからこの記事は「私には見えている」という自慢にはなりえません。私も誰かから見れば、「なぜ動かないの?」と思われている側です。
立つ場所と、落ちる場所
では、経験者は何も教えられないのでしょうか。そんなことはありません。バレーの試合で起きることは、かなりの部分が決まっています。ボールが相手コートに渡ったら、まず何を準備するか。トスが上がったら、何を警戒するか。こういう「いま、どこに立って、何に備えるか」は、言葉にできます。教わっていないだけの子が、大勢います。
一方で、打たれる直前の、相手の肩や手の動きから行き先を読む部分は、言葉になりません。教える側自身が「いつのまにか」身につけたもので、本人にも中身を説明できないからです。
前者が「立つ場所」、後者が「落ちる場所」です。そして——
どこに立つかは、いま教えられます。どこに来るかは、場数を踏むまで分かりません。
これは突き放した話ではありません。いま読めていないのは、能力が足りないからではなく、場数がまだ足りないからです。足りないものが場数なら、増やせます(あとで3つ目の方法として書きます)。
読みの正体を、目の動きから調べた研究もあります。バレーボールの熟練者と初心者に、トスを上げる選手の映像を見せて、ボールが前と後ろのどちらに上がるかを予測させ、そのあいだの目の動きを記録しました[2]。熟練者は初心者より速く、正確に当てました。しかも、あちこちを見ていたわけではありません。見る回数はむしろ少なく、ひとつの場所を長く見る——どこを見れば読めるかを、先に知っている見方です。
正直に書いておきます。この研究が比べたのは熟練者と初心者で、「高いレベルの選手同士でも読みの差はつくのか」を確かめた研究には、今回たどり着けませんでした。実は私自身、この問いに答えられません。私に分かるのは自分より下との差だけで、自分より上に何が見えているかは、見えないからです。本人にも分からないことは、正直にそう書いておきます。
言って聞かせるか、やらせてみるか
立つ場所は言葉にできる、と書きました。ただし、「言葉にできる」ことと、「言って聞かせれば伝わる」ことは、別の話でした。
7〜9歳の子どもに、口頭で伝えた一連の動作の指示をどれだけ覚えていられるかを試した研究があります[3]。指示を聞きながら実際に体でやってみた子は、覚えていられる量が増えました。増えなかったのは、黙って読んだ子、聞くだけの子、そして声に出して復唱した子です。「2回触れたから増えた」のでも「自分で言ったから増えた」のでもないことを、実験は切り分けています。
親がいちばんやりがちな教え方は、言って聞かせて、復唱させることだと思います。「相手が打つときは、ここに立つ。言ってみて」。この教え方では、増えませんでした。増えたのは、言いながら実際にやらせたときだけです。
この記事で言えないこと
私の証言は、私ひとりの話です。しかも、読めるようになった中学から高校にかけては、一度に見える範囲そのものが育つ時期と重なります。成長で見えるようになったのか、場数で読めるようになったのか、私の例では分けられません。
実際にやらせて増えたのは「覚えていられる量」です[3]。試合で動けるようになったかどうかは、この研究では確かめられていません。
読みを育てるのは場数、と書きました。すると、道具で近道できないか、と考えたくなります。実際、「動体視力トレーニング」のような、目を鍛えることをうたう機器やアプリが売られていて、目の訓練で選手の判断が速くなったと報告した研究もあります[4]。ただし、研究で効果が出た訓練は、何を、どの順番で、どれだけやるかを研究者が決めて、全員が同じメニューで行ったものです。売られている商品が、それと同じメニューだとは限りません。周りを見る力の話は、稿を改めて書きます。
家庭でできること
明日からできることを、3つに絞ります。
- 「集中していない」と決める前に、手がかりが届いているかを疑う。 ボールを見ていないのではなく、見ても、まだ次が読めないだけかもしれません。疑うだけでよく、その場で結論を出す必要はありません
- 立つ場所は、その場で動かしながら、少しだけ教える。 口で説明して復唱させるのではなく、実際にその場所まで動かして、立たせてみる。一度に教える量は少しだけ。そして「落ちる場所」は教えられないと知っておくと、教える側の焦りが減ります
- スマホで撮った動画を、相手が打つ瞬間で止めて、「どこに来ると思う?」と当てさせる。 落ちる場所に必要なのは場数で、動画ならそれを家の中でも増やせます。研究者が熟練者の読みを調べたやり方を、家庭に借りる形です(撮った映像との付き合い方は、スポーツの上達とデータの記事に書きました)
つけ足しをふたつ。「教えられない」の中には、実は答えが文書で公開されているものもあります。競技団体の指導資料がそれで、どこに立つかの教え方は、それだけで一本の記事になるので稿を改めます。もうひとつ、子どもに説明してみること自体が、教える側の練習になります。しまい込んだ知識は、出す練習をしないと出てきません。
「なぜ動かないの?」と思ってしまうこと自体は、たぶん止められません。私はいまも思います。ただ、そう思った次にすることは変えられます。私も、その練習の途中です。
- Mann DL, Abernethy B, Farrow D. Action specificity increases anticipatory performance and the expert advantage in natural interceptive tasks. Acta Psychologica. 2010;135(1):17-23. PubMed
- Piras A, Lobietti R, Squatrito S. Response time, visual search strategy, and anticipatory skills in volleyball players. Journal of Ophthalmology. 2014;2014:189268. PubMed
- Jaroslawska AJ, Gathercole SE, Allen RJ, Holmes J. Following instructions from working memory: Why does action at encoding and recall help? Memory & Cognition. 2016;44(8):1183-1191. PubMed
- Guo Y, Chen C, Peng J, Deng L, Yuan T. Does visual training enhance athletes' decision-making skills and sport-specific performance? A systematic review and meta-analysis. Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports. 2025;35(10):e70140. PubMed
本記事は論文と筆者の経験に基づく一般的な情報提供であり、個別の指導に代わるものではありません。教え方はお子さんの年齢や競技によって変わります。迷うときは、その子を日ごろ見ている指導者にもご相談ください。