ジュニアスポーツの科学ノート
うちの子のために、論文を読みました
うまくなる仕組み連載: 昔の常識と現代の科学 2026-08-20 ・ 三田村あきら

ゴールデンエイジは本当にあるのか——指導者講習で納得した私が、論文を読み直した

幼稚園から7年間、器械体操を習っていました。おかげで子どものころは「スポーツは何でもすぐできる子」でした。逆に音楽はずっと苦手で、大人になっても苦労しています。だから「体操や音楽は、小さいうちに始めないと身につかない」という話を、私は誰かに教わる前から、自分の体験で信じていました。

3年ほど前、サッカーの指導者講習を受けたとき、その信念に図がつきました。子どもの育ちを描いた曲線の上に、「この時期は動きづくり」と練習の中身を重ねた図です。ああ、やっぱりそうなのか、と納得したのを覚えています。科学を仕事にしている私でさえ、講義で聞いた説明の中身はほとんど忘れたのに、図だけは頭に残りました。

この記事を書くために、自宅に残っていた講習の教材を探し出して、開きました。そこで手が止まりました。私が覚えていたのは、4本の線がそれぞれの速さで100%へ登っていく、あの有名なグラフです。ところが実物に載っていたのは、1本の、まったく別の曲線でした。

記憶に頼れないなら、確かめ直すしかありません。教材と公的な資料と論文を読み直しました。

先に結論を書きます。

この記事の軸になる論文
「子どもの一般的な運動能力に、特別に身につきやすい時期はあるのか」を正面から検討した批判的レビュー(2020年発表・複数の研究を検討した批判的レビューのため、単一の実施国は該当しません)
van Hooren B, De Ste Croix M. Sensitive periods to train general motor abilities in children and adolescents: do they exist? A critical appraisal. Strength and Conditioning Journal. 2020;42(6):7-14.[1]

その言葉は、いまどこにいるのか

「ゴールデンエイジ」は、おおむね9〜12歳ごろの「動きを覚えるのにいちばん適した時期」とされてきました。いま、公的な資料のどこにいるのか。

日本サッカー協会(JFA)が公式サイトで配布中のハンドブックには、いまも「一生に一度だけ訪れる、さまざまな動作を即座に身につけてしまうことのできる『ゴールデンエイジ』と呼ばれる年代」とあります[2]。別のリーフレットが根拠として載せるのは「スキャモンの発育発達曲線(スキャモン,1930年)」——体の部分ごとの育ち方を4本の線で描いた図——と、「6歳で神経系は大人の90%」の数値[3]。私の講習の教材の図はスキャモンではなく、「1年間に身長が何センチ伸びたか」の1本の曲線——導入で書いた「記憶と違った図」がこれです(この図に出典は示されていませんでした)。そして最新の全体方針『Japan's Way 2026』(2026年1月)には、「ゴールデンエイジ」も「スキャモン」も一度も出てきません[4]。あるのは4つの段階と、「各年代の年齢はあくまで平均的な年齢であり、実際には個人差があることに注意してください」という但し書きです[4]。

資料 「ゴールデンエイジ」 根拠として示される図
ハンドブック(配布中)[2] あり なし
リーフレット(配布中)[3] なし スキャモンの発育曲線
私が受けた講習の教材 あり 身長の伸びる速さの曲線
『Japan's Way 2026』[4] 出てこない 始動5〜8歳/成長9〜12歳/挑戦13〜17歳/成熟の4段階

言葉は残ったまま、根拠として示されるものが変わってきています。 それが資料の新旧なのか、講習の種類の違いなのかは、私には分けられませんでした。「協会が否定した」という話でもありません。私はその変化の途中で講習を受けた一人だった、というだけです。

その図は、何を測った図だったのか

では、スキャモンの図——各部分の育ちを、20歳の値を100%として描いたもの——は、何を測った図なのか。原典は1930年刊の書籍で、私は入手できていません。ここは、原典を直接引用している総説——研究をまとめて整理した論文——に頼ります[5]。

総説によれば、4本のうち「神経型」の曲線は、脳の重さや小脳・眼球などの発育をもとに描かれたものです。出生後に急激に増え、10歳ごろにはほぼ止まる。つまりこの曲線が測っているのは臓器の重さや大きさであって、「動きの覚えやすさ」ではありません[5]。なお、よく見る4本のグラフは、スキャモンの考えをもとに後年描かれてきた図です[6]。

「6歳で神経系は大人の90%」という数値は、日本のサッカー界の公的な資料に書かれており[3]、発育発達の総説にも同じ読み取りがあります[5]。ところが、この数値をそのまま受け取ると、少し奇妙なことになります。6歳で90%なら、9〜12歳の「ゴールデンエイジ」は、この図の上では神経系がほぼ出来上がったあとの期間だからです。図と年代論は、きれいにはつながっていません。

もうひとつ、神経型の線は100%まで登ったあと横ばいのままで、下りてくる場面が描かれていません[5]。「早く育つ」は図から読めても、「あとで衰える」「窓が閉まる」は図のどこにもない。ただし、描かれていないことは、閉まらないことの証明にもなりません。図を眺めるのはここまでにして、「伸びどき」そのものを調べた研究に行きます。

「伸びどき」そのものを調べた研究

私の教材にあった「伸びる前は動きづくり」という配置は、長期的な選手育成の考え方として世界中の育成プログラムに採用されてきた「いまが伸びどき」という区切りの系譜にあります。身長の伸びと結びつけて、動き・スタミナ・パワーそれぞれに「特に効く時期」を割り当てる考え方です。

この区切りを正面から検討した2020年の批判的レビュー——冒頭に掲げた軸論文です——は、こう結論しています。「一般的な運動能力というものと、それに結びつけられた身につきやすい時期は、存在しない」。そして、若い選手のトレーニングに用いるべきではない、とまで書いています[1]。先行するレビューも、この育成モデルが生理学的な裏づけを欠くと批判していました[7]。

レビューだけではありません。走る速さの練習への反応を、思春期の前・最中・後——年齢の区切りではなく、その子の身長がいちばん伸びる時期を基準にした区分で、同じ学年でも何年もずれます——で比べたメタ解析があります[8]。メタ解析は、1本の研究の結果が偶然に振られるので、同じ問いを調べた研究を集めて全体の傾向を見る方法です。

走る速さの練習は、いつ効いたか
身長がいちばん伸びる時期の前:効果があるともないとも言えなかった
伸びている最中:効果を確認できた
伸びたあと:効果を確認できた
出典: Moran J, et al. Int J Sports Med. 2017[8]。複数の研究をまとめた結果(数値は参考文献の注記に記載)。

「身長が伸びる前こそ動きを身につける適時期」という配置に対して、実測では、思春期前だけ、効果があるともないとも言えていません(ばらつきが大きいのです)。「いまが伸びどき」のはずの時期が、測ってみると特別に伸びやすい時期には見えない。少なくとも走る速さについては、「伸びる前がいちばん」という配置を支えない結果です。

「小さいうちの脳は特別」の中身を仕分ける

それでも俗説がしぶといのは、背骨に「子どもの脳は特別に変わりやすい」という、それらしい話があるからです。ここから動物実験の話が続きますが、目的はひとつ——この言い分が何を根拠にしているのかを確かめるためです。脳の配線の変わりやすさの研究は動物実験で積み上がっていて、中身は3種類に分かれます。

奪うと戻らない。 子猫の片目を、生後の限られた時期にふさぐと、あとで開けても視覚は戻りません。大人の猫では1年以上ふさいでも検出できる影響がありませんでした[9][10]。鳥も、決まった時期に仲間のさえずりを聞けないと歌を学べません[11]。この証拠は強いものです。

壊れても作り直せる。 「若い脳ほど損傷から回復しやすい」という古い原則[12]には、いまも議論があり、そもそも提唱者本人の実験結果を単純化したものだ、という指摘があります[13]。回復の幅は広く、「若いほど回復する」でも「若いほど脆い」でも説明しきれない、というのが総説の結論です[14]。私はどちらにも賭けません。

与えると、先で優れる。 遊び道具や仲間の多い環境で育てたラットは、脳に変化が出ます[15][16]。ただ、この研究の続きには俗説にとって都合の悪い報告があります。同じ変化は、大人になってから環境を豊かにしたラットにも出ていたのです[15]。

ここが要点です。「ゴールデンエイジ」が主張しているのは3つ目——この時期に与えれば、先で優れる——だけです。ところが、その裏づけとして持ち出されがちなのは1つ目、「この時期に奪われると戻らない」の実験のほうです。奪うことの証拠は、与えることの証拠にはなりません。片目をふさがれた子猫の実験は、習い事を何歳で始めるかについて、実は何も言っていないのです。

この節はすべて動物の基礎研究です。仕組みの説明として紹介するにとどめ、あとに出てくる「家庭でできること」の根拠には使いません。

私が信じていた3つのうち、1つは当たっていました

私が信じていた「小さいうちでないと」は3つありました。体操、音楽、そして絶対音感です。

娘がまだ小さいころ、楽器の習い事を始めさせました。理由のひとつは「絶対音感は小さいうちでないと身につかない」という話を知っていたこと。もうひとつは、音楽が苦手なまま大人になった私自身の苦労を、娘に繰り返させたくなかったことです。

調べ直すと、これは当たっていました。音の高さを聞き当てる力は、訓練を早く始めた人ほど身についています。音楽院の学生を直接テストした大規模研究では、5歳以下で始めた群の正答率は83%[18]。米中の音楽院を比べた研究でも、開始が早いほど保有率が高い[17]。

ただし、最近の研究はもう一段細かいことを言っています。双子1,400人あまりとプロの音楽家を調べた研究では、その時期の練習量を考慮に入れると、開始年齢そのものは予測材料でなくなりました[19]。効いていたのは6〜11歳に積んだ練習の量で、生まれつきの差も関わっていました。つまり、当たっていた1つでさえ、「何歳で始めたか」より「その時期にどれだけやったか」の話だった。窓が閉まるかどうかではなく、時間を溜められたかどうか——この記事は、ここへ何度も戻ってくることになります。

それでも、早く始めた人ばかりの競技はあります

私は中学からバレーボールを始めて、出遅れを感じたことがありません。いまも大人のチームで続けています。体格や戦術で補いのきく競技だからだと思っています。一方、卓球のような競技は、相手との距離が極端に近く、繊細なタッチと予測が勝負を支配します。トップ層を見わたすと、幼児期に始めた選手が大半です。

これは「窓」の証拠でしょうか。私はそうは読みませんでした。早く始めた人が強い競技には、窓を持ち出さなくても説明のつく事情がそろっています。積んだ時間の差は、そのまま残ること。予測で決まる競技では、読みの手がかりが場数でしか溜まらないこと。周りの開始年齢が早いほど、同じ出遅れでも大きく見えること。それから制度もあります——たとえば卓球では、全国大会が小学2年生以下の部から始まります[20]。窓が閉まるより先に、選抜の入口のほうが来る競技があるのです。

もうひとつ、「一流になれるか」と「上達できるか」は分けて考える必要があります。世界トップ選手を集めたメタ解析では、成人して世界トップに立った選手は、国内トップにとどまった選手よりも、子ども時代に多くの種目を経験し、主種目を始めた年齢が遅く、初期の伸びも遅い傾向がありました[21]。ひとつの競技に早く絞ること(早い専門化)が有利に見えるのは育成年代の成績までで、頂点では逆転しています。なお、遅く始めて世界レベルに達した卓球選手・体操選手の実例は、探しましたが確認できませんでした。遅く始めても上達はできる、ということと、一流になれる、ということは別の主張で、後者を約束する材料を私は持っていません。

この記事で言えないこと

家庭でできること

論文と資料を読み終えて、わが家で決めたことは3つです。

  1. 「いまを逃すと手遅れ」に出会ったら、出どころと但し書きを確かめる。 この一文は、どの公的資料にも、私の講習にもありませんでした。現れるのは、始めさせることで誰かが得をする場所か、人づてに煮詰まった話の中です。逆に公的な資料は、年齢の区切りに「実際には個人差がある」という但し書きを必ず添えています[4]——それでも私の頭に残ったのは図だけでした。脅し文句には出どころを、年齢の区切りには但し書きを探す——それだけで、たいていの脅しは薄まります
  2. メインの競技を決めたあとも、週のどこかに別の種目や外遊びの時間を残す。 この処方箋そのものは人間のデータで支持されています[21]。頂点に立った選手ほど、子ども時代は雑食でした
  3. 「もう遅いから」を、始めない理由にも、やめさせる理由にも使わない。 遅く始めても、上達そのものは妨げられません。一流を約束する材料がないのと同じで、手遅れを宣告する材料もありませんでした

最後に。スキャモンの考えをもとに描かれてきた図にも、私の教材の曲線にも、登った線が下りてくる場面は描かれていません。ただ、それは証明ではありません。証明に近いものは、窓そのものを調べた研究の側にあります——一般的な運動能力に、特別に身につきやすい時期は存在しない、と[1]。だから、遅れて始めた子の前で、私はもうあの図を思い浮かべないことにしました。窓は閉まりません。追い風が止むだけです。

## 参考文献
  1. van Hooren B, De Ste Croix M. Sensitive periods to train general motor abilities in children and adolescents: do they exist? A critical appraisal. Strength and Conditioning Journal. 2020;42(6):7-14. DOI
  2. 公益財団法人日本サッカー協会. U-8/U-10 ハンドブック(PLAYERS FIRST!). 発行年の記載なし(PDFの作成日時は2018年3月). PDF
  3. 公益財団法人日本サッカー協会. JFAキッズ年代エリートプログラム(リーフレット2). 発行年の記載なし(PDFの作成日時は2009年4月). PDF
  4. 公益財団法人日本サッカー協会 技術委員会. Japan's Way. 第2版. 2026年1月. (4段階と但し書きは誌面p.38-39)
  5. 藤井勝紀. 発育発達とScammonの発育曲線. スポーツ健康科学研究. 2013;35:1-16.
  6. Scammon RE. The measurement of the body in childhood. In: Harris JA, Jackson CM, Paterson DG, Scammon RE, editors. The Measurement of Man. Minneapolis: University of Minnesota Press; 1930.
  7. Ford P, De Ste Croix M, Lloyd R, et al. The Long-Term Athlete Development model: physiological evidence and application. Journal of Sports Sciences. 2011;29(4):389-402. PubMed
  8. Moran J, Sandercock G, Rumpf MC, Parry DA. Variation in responses to sprint training in male youth athletes: a meta-analysis. International Journal of Sports Medicine. 2017;38(1):1-11. PubMed — 統合値(効果量)は思春期前 −0.18(95%信頼区間 −1.35〜0.99)/伸びている最中 1.15(0.40〜1.9)/伸びたあと 1.39(0.32〜2.46)
  9. Hubel DH, Wiesel TN. The period of susceptibility to the physiological effects of unilateral eye closure in kittens. Journal of Physiology. 1970;206(2):419-436. PubMed
  10. Wiesel TN, Hubel DH. Single-cell responses in striate cortex of kittens deprived of vision in one eye. Journal of Neurophysiology. 1963;26:1003-1017. PubMed
  11. Brainard MS, Doupe AJ. What songbirds teach us about learning. Nature. 2002;417(6886):351-358. PubMed
  12. Kennard MA. Age and other factors in motor recovery from precentral lesions in monkeys. American Journal of Physiology. 1936;115(1):138-146.
  13. Elliott D. The Legacy of the Kennard Principle. Journal of Undergraduate Neuroscience Education. 2020;19(1):R11-R14. PubMed
  14. Anderson V, Spencer-Smith M, Wood A. Do children really recover better? Neurobehavioural plasticity after early brain insult. Brain. 2011;134(Pt 8):2197-2221. PubMed
  15. Rosenzweig MR, Bennett EL. Psychobiology of plasticity: effects of training and experience on brain and behavior. Behavioural Brain Research. 1996;78(1):57-65. PubMed
  16. van Praag H, Kempermann G, Gage FH. Neural consequences of environmental enrichment. Nature Reviews Neuroscience. 2000;1(3):191-198. PubMed
  17. Deutsch D, Henthorn T, Marvin E, Xu H. Absolute pitch among American and Chinese conservatory students: prevalence differences, and evidence for a speech-related critical period. Journal of the Acoustical Society of America. 2006;119(2):719-722. PubMed
  18. Deutsch D, Li X, Shen J. Absolute pitch among students at the Shanghai Conservatory of Music: a large-scale direct-test study. Journal of the Acoustical Society of America. 2013;134(5):3853-3859. PubMed
  19. Bairnsfather JE, Ullén F, Osborne MS, Wilson SJ, Mosing MA. Investigating the relationship between childhood music practice and pitch-naming ability in professional musicians and a population-based twin sample. Twin Research and Human Genetics. 2022;25(3):140-148. PubMed
  20. 公益財団法人日本卓球協会. 全農杯 全日本卓球選手権大会(ホープス・カブ・バンビの部). バンビの部=小学2年生以下(1981年度に全日本選手権の一種目として開始、1985年度に分離独立)
  21. Güllich A, Macnamara BN, Hambrick DZ. What makes a champion? Early multidisciplinary practice, not early specialization, predicts world-class performance. Perspectives on Psychological Science. 2022;17(1):6-29. PubMed

本記事は論文と公開資料に基づく一般的な情報提供であり、個別の指導に代わるものではありません。お子さんの体や心について気になることがあるときは、専門家にご相談ください。

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