ジュニアスポーツの科学ノート
うちの子のために、論文を読みました
うまくなる仕組み 2026-10-11 ・ 三田村あきら

サッカーでパスをもらえない子——「動き出しが悪い」と言う前に、私が読んでいなかったもの

ワールドカップをテレビで見ていたとき、息子が言いました。「スペインのサッカーが好きだ」。短いパスをつないで、相手の近くでも平気でボールを受ける、あのサッカーです。

その息子が、自分の試合ではパスをもらえません。ボールを持てば、ダイレクトで返せますし、逆サイドへ大きく蹴り替えることもできます。見えていないわけではないのです。それなのに、ボールを持っていないときは、いつも相手の近くにいて、囲まれています。守りから攻めに変わる場面で、息子のところにボールが来ません。

私は、位置取りが悪いのだと思っていました。

ところが、ふだんとは別の場所でサッカーをしたとき、同じ子が、するするとパスをもらっていました。何が違うのか。この記事は、それを研究と公式の資料で確かめた話です。

先に結論を書きます。いい位置に立てるかどうかは、その子ひとりの能力ではなく、コートの広さと、まわりの味方と相手で決まる部分が大きい。 だから「パスをもらえない」は、その子だけを測った数字ではありません。そして、どのチームに行っても変わらない「どこでも同じ決まり」と、そのチームでしか通じない「そのチームの約束事」は、別のものです。この記事では、位置取りをこの2つに分けて見ていきます。

この記事の軸になる論文
ポルトガルの15〜16歳の男子20人に、大きさの違う3つのコートで4対4(ゴールキーパーつき)をしてもらい、選手どうしの距離とチームの形がどう変わるかを測った研究(2014年発表・ポルトガルで実施)。コートを広げると、チームが広がる面積はおよそ2倍になりました。同じ選手でも、空間が変われば正しい動きが変わる、ということです。
Silva P, Duarte R, Sampaio J, Aguiar P, Davids K, Araújo D, Garganta J. Field dimension and skill level constrain team tactical behaviours in small-sided and conditioned games in football. Journal of Sports Sciences. 2014;32(20):1888-1896.[1]

同じ子でも、コートが変われば正しい場所が変わります

軸にした研究[1]は、ポルトガルの15〜16歳の選手20人に、小・中・大の3つのコートで4対4をしてもらったものです。選手も人数も同じ。違うのはコートの広さだけです。

コートを広げると、4人が広がって作る面積はおよそ2倍になりました。相手から自由でいられる広さも、チーム全体で見て広がりました。そして、この記事にいちばん効く結果がもうひとつあります。コートの広さに合わせてチームの形を変えたのは、全国レベルのクラブの選手たちだけでした。地域リーグの選手たちは、コートが変わっても形があまり変わりませんでした。

言えるのはここまでです。正しい位置は、コートの広さで変わる。広さに合わせて立つ場所を変えられるかどうかに、うまさの差が出る。ただしこれは15〜16歳の話で、小学生ではありません。

小学生そのものを見た研究もあります。ブラジルの8歳以下・10歳以下・12歳以下(U-8・U-10・U-12)の男子180人に、ふつうの大きさのコートと小さいコートの両方で試合をしてもらったところ、小さいコートではシュートが増え、ボールが速く動きました[2]。良い悪いではなく、起きることそのものが変わっていました。

私は息子の「位置」を見ていました。でも位置は、コートとまわりの人で決まる。息子ひとりの能力として測ることは、そもそもできなかったのかもしれません。

「パスをもらえない」は、出し手の数字でもあります

もうひとつ、私が見落としていたことがあります。パスは、ひとりでは起きません。息子がいい場所に動き出していても、ボールを持った味方が顔を上げていなければ、パスは出ません。「パスをもらえない」は、受け手と出し手の両方で決まる数字です。別の場所で同じ子がパスをもらえていたのも、急にうまくなったからではないでしょう。コートも味方も相手も役割も、同時に変わっていたのですから。

立つ場所は教えられます。ただし、渡し方に条件があります

ここまで読むと、「じゃあ教えても意味がないのか」と思われるかもしれません。そうではありません。

ボールを持っていないときに、味方からどのくらい離れて、どの角度に立つか。これは言葉にできますし、本人が意識して変えられます。ですから、教えられます。このことは、稿を改めて書くつもりです。

言葉で位置取りを指示すると、その場の立ち位置が変わることは、研究で確かめられています。ポルトガルのセミプロの男子16人(平均23.9歳)に、コーチが「コンパクトに守れ」「ボールを保持しろ」といった指示と、チームがどう並ぶかを伝えてから7対7をしてもらった研究です[3]。守備の指示を出すとチームは縮まり、攻撃の指示を出すと広がりました。言えば、立ち位置は変わる。ここは取れています。ただし、大人の話です。

そして、「言葉にできる」ことと、「言葉で教えれば身につく」ことは、別でした。ポーランドの研究グループが、U11〜U12の106人を1年間追った研究があります[4]。半分には、コーチが指示して教えるふつうの練習。もう半分には、自分たちで考えさせ、やらせてみる練習。1年後、戦術の理解、試合から場面だけを取り出した練習でのプレー、試合の中でのプレーの3つとも、やらせて考えさせた側の伸びが大きかったのです。

これは「教えても変わらない」という結果ではありません。口で教えるより、やらせて考えさせるほうが伸びた、という結果です。立つ場所は教えられる。ただし、言って聞かせる形では渡りにくい。私がコーチをしていたころ、低学年の子に位置取りの話をして「その年代には難しいな」と感じていたのは、話が難しかったのではなく、渡し方が合っていなかったのかもしれません。

分かっていないこと

正直に書きます。言葉で位置取りを指示して立ち位置が変わった、と確かめられているのは大人です。育成年代で同じ種類の研究があるのは15〜17歳まで。小学生に言葉で位置取りを指示して、立ち位置が変わるかを調べた研究は、見つかりませんでした。 上のポーランドの研究はU11〜U12ですが、あれは「教え方の比較」であって、「言葉で指示したらどうなるか」を調べた研究ではありません。サッカーの指導の研究を幅広く集めたレビューでも、コーチの指示そのものを扱った研究は1本だけで、それもフリーキックの蹴り方でした[5]。小学生については、証拠が薄い。薄いままにしておきます。

どこでも同じ決まりと、そのチームの約束事

では、教えるとして、何を教えるのか。ここで私は、自分が読んでいなかったものに行き着きました。

日本サッカー協会が、『Japan's Way』という資料を公開しています。第2版が2026年1月に出ていて、PDFで誰でも無料で読めます[6]。私は指導者講習を受けていて、日々サッカーのことは学んでいるつもりでした。でも、この資料をきちんと読んだことがありませんでした。

答えは、無料で公開されていました。私が読んでいなかっただけです。

この資料は、位置取りを3つの段階に分けています(PDFで数えて14ページ目。誌面の番号では13ページ)。いちばん下が「プレーの原則」。サッカーという競技の構造から出てくる決まりで、どのチームでも、どの国でも変わりません。この記事で言う「どこでも同じ決まり」です。その上に、日本のサッカーが向かう方向としての「プレービジョン」があり、いちばん上に、それぞれのクラブや監督が持つ「プレーモデル」があります。この記事で言う「そのチームの約束事」です。

私は、息子の位置取りを見て「悪い」と思っていました。でもそのとき、どこでも同じ決まりを分かっていないのか、そのチームの約束事で戸惑っているのかを、分けて見ていませんでした。この2つは、対処がまったく違います。前者なら教えられるし、資料に書いてあります。後者なら、教えるべきはコーチで、私ではありません。

どこでも同じ決まりの中身も、同じページにあります。攻撃で5つ、守備で5つ、そして攻守の切り替え。攻撃の5つの中に「サポート」と「幅と深さ」があります。味方を支えるためにどこに立つか。コートの幅と奥行きをどう使うか。息子に足りなかったかもしれないのは、まさにここでした。別のページには、ポジションごとに、攻めているとき、守っているとき、切り替えのときにどう動くかまで書いてあります(PDFの29ページ目と31ページ目。誌面では28と30)。たとえば攻撃的なミッドフィルダーの攻撃の一番目は、「ゴールへ向かうための可能な限りフリーになれるライン間のポジショニング」です。ライン間とは、相手の守備の列と列のあいだのことです。

ただし、選手像のページは小学生への処方ではありません

ここで、いちばん大事な注意を書きます。

この資料そのものは、日本のサッカー全体に向けて書かれていて、小学生を含む育成年代の話も広く出てきます。ただし、この記事で引いたポジション別の選手像や「原則の徹底」は、日本代表と、代表につながる選手たちについて書かれたページです。見出しにも「育成代表チームで目指し、選手に期待すること」とはっきり書いてあります(PDFの20ページ目。誌面では19)。小学生への処方として書かれたものではありません。

そして私は、読んだ瞬間に、代表の基準をわが子に当てたくなりました。ポジション別の選手像を読みながら、「息子はこれができていない」と数え始めていたのです。大人が、自分の持っている基準で子どもを測ってしまう。以前の記事で何度も書いてきた「大人の歪んだ物差し」の、新しい形です。

面白いのは、同じ資料が、それを戒めていることです。ポジション別の選手像(資料の言葉では「プロファイル」)が書かれたページの左下に、こう書いてあります。

各ポジションにおけるプロファイル:個々に示した選手像に関わらず多様なスタイルを認めてあげる!

「代表の基準を当てるな」と書いているのは、外の誰かではなく、資料そのものでした。答えが無料で公開されていて、私が読んでいなかった。そのことの中には、この一行も含まれていました。

別の競技で習った「正解」が、出ているのかもしれません

もうひとつ、私の推測を書いておきます。推測だと分かるように書きます。

息子はフットサルもやっています。フットサルでは、ボールを持った味方の横を走り抜けて、近くでボールを受ける動きをよく練習しています。サッカーのコートで、息子が相手の近くに立ってしまうのは、フットサルで習った「正解」が出ているのではないか。私にはそう見えます。

運動の学習には、古くから「転移」という考え方があります。ある場面で身につけたことが、別の場面に移ることです。役に立つこともあれば、何も起きないことも、邪魔になることもある、と整理されています[7]。ただし、スポーツとスポーツのあいだで実際に何が移るのかを調べた研究は、集めても17本しかなく、質も高くありません[8]。邪魔になる方向を主題にした研究は、その中にもありませんでした。

ですから、「フットサルで習ったから近づく」は、私の観察にすぎません。同じフットサルの動きでも、移りやすいものと移りにくいものがあるように見えますが、それも観察です。フットサルをやると位置取りが悪くなる、という話ではありません。もしそうなら、息子は「コートが変われば正しい場所が変わる」を、身をもって経験している途中だということです。

この記事で言えないこと

軸にした研究は、コートを小さい順に1回ずつ試しただけなので、疲れや慣れの影響を分けられていません。ふだんとは別の場所で息子がパスをもらえていた、というわが家の観察も、コートも味方も相手も役割も同時に変わっていて、何が効いたのか分けられません。フットサルの一般的な戦術と、息子が実際に練習した中身は別です。フットサルの経験がサッカーの位置取りに移るかを、子どもで調べた研究には行き着けませんでした。転移の研究は大人と実験室のものが中心で、育成年代の証拠は限られます。「スペインが好きだから近づく」は、私の推測にすぎません。そして、この記事で引いた『Japan's Way』の選手像のページは、日本代表と代表育成年代について書かれたもので、小学生への処方ではありません。

家庭でできること

  1. 「動き出しが悪い」と言う前に、味方を見る。 ボールを持っていた子は、顔を上げていたか。出せる味方がいなければ、いい場所に動いていてもパスは来ません
  2. 子どもに1つ聞く。 「守りから攻めに変わるとき、どこに行く決まりになってる?」。答えがそのチームの約束事なら、教えるのはコーチです。どこでも同じ決まりのほうが分かっていないなら、親にも渡せます
  3. 渡すなら、動かしながら少しだけ。 口で説明するより、やらせて考えさせるほうが伸びました[4]。公園でボールひとつあれば、「ここに立ったら、パスは出せる?」はできます
  4. 競技をかけ持ちしているなら、正解が違うことを一度言葉にする。 「あっちでは近づくのが正解、こっちでは離れるのが正解」。どちらかが間違いだとは言いません
  5. 『Japan's Way』のPDFを開いてみる。 無料です。14ページ目が3つの段階と原則の一覧、29・31ページ目がポジション別の記述です(左下の一行も一緒に)。読んだら、子どもに説明してみてください。自分の言葉で渡そうとすると、分かっていないところが自分で分かります

息子には、これから伝えてみるつもりです。いまはまだ、私が読み終えたところです。

## 参考文献
  1. Silva P, Duarte R, Sampaio J, Aguiar P, Davids K, Araújo D, Garganta J. Field dimension and skill level constrain team tactical behaviours in small-sided and conditioned games in football. Journal of Sports Sciences. 2014;32(20):1888-1896. PubMed
  2. Silvino MPF, Sarmento H, Teoldo I. Comparing the tactical behavior of young soccer players in full- and small-sided games. Research Quarterly for Exercise and Sport. 2024;95(4):983-992. PubMed
  3. Batista J, Gonçalves B, Sampaio J, Castro J, Abade E, Travassos B. The influence of coaches' instruction on technical actions, tactical behaviour, and external workload in football small-sided games. Montenegrin Journal of Sports Science and Medicine. 2019;8(1):29-36. DOI
  4. Duda H, Rydzik Ł, Sawicki L, et al. Effects of a Creative Teaching-Based Training Programme on Tactical Knowledge, Technical–Tactical Efficiency and Game Performance in U11–U12 Youth Football: A Quasi-Experimental Study. Applied Sciences. 2026;16(11):5514. DOI
  5. Bergmann F, Gray R, Wachsmuth S, Höner O. Perceptual-motor and perceptual-cognitive skill acquisition in soccer: A systematic review on the influence of practice design and coaching behavior. Frontiers in Psychology. 2021;12:772201. DOI
  6. 公益財団法人 日本サッカー協会 技術委員会. Japan's Way. 第2版. 2026年1月. PDF(全58ページ)
  7. Issurin VB. Training transfer: scientific background and insights for practical application. Sports Medicine. 2013;43(8):675-694. PubMed
  8. Oppici L, Panchuk D. Specific and general transfer of perceptual-motor skills and learning between sports: A systematic review. Psychology of Sport and Exercise. 2022;59:102118. DOI

本記事は論文に基づく一般的な情報提供であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。お子さんについて気になることがあるときは、専門家にご相談ください。

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