強いシュートが打てない小学生——置きボールなら飛ぶのに、試合では飛ばない理由を探しました
息子は地域の相撲大会に出ていて、自分より20キロ以上重い相手に勝つことがあります。体力テストの立ち幅跳びも、学年で上のほうです。体を動かす力が足りない、ということはなさそうです。
それなのに、試合ではシュートが弱い——私はそう感じていました。最初に疑ったのは体格です。息子は学年で小柄なほうなので、体が小さいから飛ばないのだと思っていました。でも、相撲の結果はその説明と合いません。次に疑ったのは蹴り方です。足の甲でボールを蹴る、強いシュートで使う蹴り方——インステップと呼びます——が、まだ身についていないのだと。
本人に聞いてみると、こういう答えが返ってきました。
「止まってるボールは強く蹴れる。走ってるときやかわしたあとが打てない」
フォームの問題なら、止まったボールでも弱いはずです。この一言は、私の見立てを二つとも否定していました。力はある。蹴り方も、少なくとも止まったボールでは働いている。それでも試合では飛ばない。力は、ひとつの物差しではなく、場面ごとに別々に出るものらしいのです。
先に結論を書きます。止まったボールで出る力が試合で出ないのは、蹴り方ではなく、「蹴るまで」の問題かもしれません。そして「打てない」には2種類あって、混ぜて数えると、子どもの力を見誤ります。
ここから実験の話が続きます。大人の話を子どもに当てはめるのではなく、息子に起きていることが大人でも起きているかを確かめる順序です。
サッカーのインステップキックで、助走の速さを変えられたとき、選手が体の何を調整しているかを細かく記録した実験(2021年発表・英国で実施)
Augustus S, Hudson PE, Smith N. The effect of approach velocity on pelvis and kick leg angular momentum conversion strategies during football instep kicking. Journal of Sports Sciences. 2021;39(20):2279-2288.[1]
速く走れば強く蹴れる、わけではありませんでした
デンマークの研究チームが、成人の男子サッカー選手7名に、止まったボールをできるだけ強く蹴らせました[2]。変えたのは助走の速さだけです。止まった状態から全力まで。ボールがいちばん速く飛んだのは、全力で走り込んだときではなく、選手が自分で選んだ速さで助走したときでした。そこから外れると、遅くしても、速くしても、ボールは遅くなったのです。
助走の勢いが、そのままボールの勢いになるわけではない、ということです。では、勢いはどこで何に変わっているのか。冒頭で紹介した論文が、そこを記録しています[1]。英国のセミプロ選手11名に、3種類の速さで助走させてインステップキックをさせた実験です。選手は、助走の速さを変えられても、軸足——ボールの横に踏み込む側の足です——を使って、体全体の減速のしかたを調整していました。この分野では、最後の一歩で体全体を減速させることが、蹴り脚の振りの勢いと、ボールの速さに結びつくと報告されてきています[1]。速く走り込んだ勢いがそのまま蹴りに変わるのではなく、蹴る直前に、体をいったん受け止める局面があるようなのです。
言えるのはここまでです。どちらも大人の選手の実験で、小学生で同じことを確かめた研究は、探した範囲では見つかりませんでした。
跳ぶ人は、踏み切る前に合わせていました
「蹴るまで」に何が起きているのかを、助走の研究が厚い競技——走幅跳から見てみます。跳躍者の助走を分析すると、踏切板が近づくにつれて、歩幅を少しずつ合わせにいくことが知られています。走幅跳をやったことのない英国の成人11名でも、熟練者と同じ調整の型が現れました[4]。研究チームはこれを「特別に訓練された技能ではなく、歩行を制御する自然な手段」と表現しています[3]。子どもでも報告があります。走幅跳の経験がないギリシャの12〜13歳27名では、男子は踏切板の5歩前、女子は4歩前から歩幅の調整が始まっていました[5]。ハードルでも、男子400mハードルの選手7名で、踏切の4歩前からの調整が報告されています[6]。
ただし、ここに並べた対象は、成人、専門の選手、子どもでも走幅跳の12〜13歳までで、小学生のサッカーではありません。それどころか、サッカーのキックの助走でこの合わせ込みを確かめた研究そのものが、見つかりませんでした。あとで「言えないこと」に書きます。
それでも私がこの話を書くのは、自分の競技に実感があるからです。私はいまも、大人のチームでバレーボールを続けています。スパイクについての私の体の感覚は、こうです——ジャンプするタイミング、スパイクのタイミングは常に一定。大事なのは、ジャンプをする前までのタイミングの取り方。打つ動作は毎回同じで、調整はそこに至るまでにあるのです。
ここで、立ち止まらなければなりません。バレーの実感は、この記事の着想の源です。でも、根拠ではありません。バレーの助走は誰にも邪魔されませんが、サッカーは相手がすぐ近くにいます。競技が違えば、同じ理屈が通る保証はありません。仮説を思いつくことと、確かめられていることを分ける——論文を読む仕事で毎日している区別を、自分の実感にも適用します。この記事で証拠と呼べるのは、上に並べた研究と、息子の「止まってるボールは強く蹴れる」という一言までです。
私が疑っていたのは、蹴り方でした
ここまでに、私の見立ては三度崩れています。体格を疑い、相撲と立ち幅跳びに崩されました。蹴り方を疑い、「止まってるボールは強く蹴れる」に崩されました。当てる精度かと疑い、これも同じ一言に崩されました。止まったボールでは、強さも精度も出ているのです。
私はインステップという蹴り方を疑っていました。実際に違っていたのは、その蹴り方を使う場面のほうでした。
「インサイドなら強く蹴れているのに」——足の内側で当てる、狙いやすい蹴り方です——と比べそうにもなりました。でも、インサイドを使うのは、スピードが乗っていなくて、時間もある場面です。蹴り方を比べているつもりで、実際には場面を比べていました。
比べているつもりのものと、実際に比べているものが違う。この形は、このサイトで何度も出てきます。上手い下手に見えているものが、生まれ月の差かもしれない、という話は早生まれの記事に書きました。シュートの強さも、同じ疑いの目で見る価値があります。
「打てない」は、ひとつではありませんでした
息子の「走ってるときやかわしたあと」を思い出すと、試合で打てない場面は2種類に分かれます。ひとつは、かわした直後や、スピードに乗っているとき。つまり自分が速いときです。時間も空間もあるのに、体の勢いの扱いがむずかしい。ここまで見てきた「蹴るまで」の話が、いちばん効いていそうな場面です。もうひとつは、相手が近いとき。こちらは、「蹴るまで」に使える時間と空間が、そもそもありません。
相手が近いときについては、育成年代でこういう実験があります。オーストラリアの育成組織の選手8名(15歳前後)に、走り込んでクロス——味方へ送る強いキック——を上げさせ、守備者を置く・置かないを変えました[7]。守備者が近づくほど、選手の走る速さはむしろ上がり、それなのにボールの速さは2割近く落ちました。急いで走るほど強く蹴れそうなものですが、逆です。著者らは、キックの現れ方は場面に固有で、守備者がいなければ現れない調整がある、と結んでいます。なぜ落ちるのかの仕組みまでは確かめられていません。それでも、相手が近くにいるだけでキックが別の課題になることは、確かです。
息子と同じ年ごろでも測られています。チュニジアの11歳の男子サッカー選手32名では、急がされて蹴ると、ボールの速さも、的への正確さも、両方落ちました[8]。どちらかと引き換えにではなく、両方です。
だから、「うちの子はシュートが弱い」という評価は、疑ってかかる価値があります。その評価は、自分が速くて打てない場面と、相手が近くて誰でも打ちにくい場面が、混ざったところで生まれているからです。みんなが打てない状況で打てないことまで、その子の弱さとして数えられてしまう。
息子はゼロからの急加速が得意です。一方で、速さを緩めたり止まったりを使い分ける場面は、まだ見たことがありません。それを「苦手」と呼ぶことは、私にはできません。教わっていないだけかもしれないし、使う場面が来ていないだけかもしれないからです。指導者によって、良しとするプレーは違います。私はコーチをしていたころ、緩急を教えていました。そして、自分の子にじっくり教えた記憶は、ありません。
これは私の見立てで、確かめられた法則ではありません。それでも、いまの私が息子のシュートについて思っていることは、一行にまとまります。
蹴り方を変えるのではありません。いつもと同じ蹴り方ができる場所まで、自分を運ぶのです。
この記事で言えないこと
- 「助走を目で合わせる練習をしなさい」とは言えません。 サッカーのキックで、助走の歩幅を目で合わせていることを示した研究は、探し方を変えて2度探しても見つかりませんでした。走幅跳と同じ解析をサッカーの助走に当てたものは、修士論文に1本あります(15歳前後・8名)。ただ、学術誌の審査を経て発表されたものではないため、この記事では結論の柱に使っていません
- 「練習の条件を毎回変えなさい」とも言えません。 大人ではそのほうがあとまで残ると言われていますが、お子さんに当てはめる根拠がまだ無いからです。18歳未満では、効果があるともないとも言い切れませんでした[9][10]。子どもの研究だけを集め直した論文も「質の良い根拠は著しく限られている」と結論しています[11]。この論文も、スポーツの技能だけを調べたものではありません
- 「インサイドは強いのだから、インステップの蹴り方が悪い」とは言えません。 ふたつの蹴り方は使う場面が違うので、比べた瞬間に、蹴り方ではなく場面を比べてしまいます。私自身が、そう間違えかけました
- 「相撲で勝てるのだから、球技でも本来は強いはずだ」とも言えません。 相撲の相手は同じくらいの稽古量の子どもたちで、試合で比べられる相手とは、どんな練習をどれだけ積んできたかが違います。勝てた事実が示すのは、体を動かす力が、場面によってははっきり出ている、というところまでです
家庭でできること
明日からできることを、3つに絞ります。
- 打てなかった場面を、2つに分けて見てください。 自分が走っていて打てなかったのか、相手が近くて打てなかったのか。相手が近いほうは、その子だけの弱さではありません。同じ場面で、ほかの子なら打てていたかどうかも、あわせて思い出してみてください
- 見る場所を、蹴り方から「蹴る直前」へ移してください。 足のどこに当たったかではなく、最後の2〜3歩と、軸足をどこに踏み込んだか。直させるためではなく、まず親が知るためです。うまくいったシュートと、いかなかったシュートで、蹴る直前がどう違ったかを見比べてください
- 「もっと強く蹴れ」の代わりに、止まったボールで出ている力を、言葉にして伝えてください。 研究で確かめられているのは「正確に狙おうとすると、速さが落ちる」という向きでした[2]。また、日本サッカー協会のガイドラインでは、ボールの大きさも年齢で分けられています(小学1・2年生は3号球、3・4年生は4号球)[12]。強さと正確さを同時に注文するより、注文をひとつ減らして、「置いて蹴れば強いんだから、力はある」から始めてみてください
息子のシュートが試合で飛ぶようになるかは、まだ分かりません。ただ、少なくとも私はもう、蹴り方を直そうとは思っていません。見ているのは、蹴る直前の数歩です。
- Augustus S, Hudson PE, Smith N. The effect of approach velocity on pelvis and kick leg angular momentum conversion strategies during football instep kicking. Journal of Sports Sciences. 2021;39(20):2279-2288. PubMed
- Andersen TB, Dörge HC. The influence of speed of approach and accuracy constraint on the maximal speed of the ball in soccer kicking. Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports. 2011;21(1):79-84. PubMed
- Berg WP, Wade MG, Greer NL. Visual regulation of gait in bipedal locomotion: revisiting Lee, Lishman, and Thomson (1982). Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance. 1994;20(4):854-863. PubMed
- Scott MA, Li FX, Davids K. Expertise and the regulation of gait in the approach phase of the long jump. Journal of Sports Sciences. 1997;15(6):597-605. PubMed
- Panteli FN, Theodorou A, Pilianidis T, Smirniotou A. Locomotor control in the long jump approach run in young novice athletes. Journal of Sports Sciences. 2014;32(2):149-156. PubMed
- Ozaki Y, Ueda T, Fukuda T, Inai T, Kido E, Narisako D. Regulation of stride length during the approach run in the 400-m hurdles. Journal of Human Kinetics. 2019;69:59-67. PubMed
- Orth D, Davids K, Araújo D, Renshaw I, Passos P. Effects of a defender on run-up velocity and ball speed when crossing a football. European Journal of Sport Science. 2014;14(Suppl 1):S316-S323. PubMed
- Masmoudi L, Gharbi A, H'Mida C, Trabelsi K, Boukhris O, Chtourou H, Bouzid MA, Clark CCT, Souissi N, Rosemann T, Knechtle B. The Effects of Exercise Difficulty and Time-of-Day on the Perception of the Task and Soccer Performance in Child Soccer Players. Children (Basel). 2021;8(9):793. PubMed
- Czyż SH, Wójcik AM, Solarská P, Kiper P. High contextual interference improves retention in motor learning: systematic review and meta-analysis. Scientific Reports. 2024;14(1):15974. PubMed
- Czyż SH, Wójcik AM, Solarská P. The effect of contextual interference on transfer in motor learning — a systematic review and meta-analysis. Frontiers in Psychology. 2024;15:1377122. PubMed
- Graser JV, Bastiaenen CHG, van Hedel HJA. The role of the practice order: A systematic review about contextual interference in children. PLoS One. 2019;14(1):e0209979. PubMed
- 公益財団法人日本サッカー協会 技術委員会. Japan's Way. 第2版. 2026年1月. 誌面p.38「JFA スモールサイドゲーム ガイドライン」. PDF(全58ページ)
本記事は論文に基づく一般的な情報提供であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。お子さんについて気になることがあるときは、専門家にご相談ください。