サッカーで周りが見えない子——「周りを見ろ」で、首は振るようになりました
大人になってから、子どもと同じことを、一から習い始めました。子どもが先にできるようになっていて、私はあとから追いかける側です。
最初のころの自分を思い出すと、私は真下しか見ていませんでした。前を見なさい、と言われるのですが、目が前に行きません。身体のことで頭がいっぱいで、顔を上げる余裕がなかったのだと思います。それが少しずつできるようになってきて、気がつくと、前が見えるようになっていました。
ここで、ひとつ分からないことが残りました。前を見られるようになったから、できるようになったのか。できるようになったから、前を見る余裕ができたのか。自分の身に起きたことなのに、順番が分かりません。
「うちの子は周りが見えていない」「周りを見ろと言っているのに見ない」。グラウンドの脇でよく聞く言葉です。この記事は、その「周りを見ろ」が何を変えるのかを、研究で確かめた話です。
先に結論を書きます。「周りを見ろ」と言えば、子どもは首を振るようになります。変わらなかったのは、その後のプレーのほうでした。 見えるようになることは、うまくなる原因というより、余裕ができたしるしなのかもしれません。ただし、どちらが先かは、研究でも決着していません。言えるのは「行動は変わる。結果はそのままだった」というところまでです。順に見ていきます。
この記事の軸になる研究は、イングランドのプロ27人を1シーズン追い、9,574回のボール保持を数えたものです(2020年発表・イングランドで実施)。パスの難しさをそろえて比べると、首を振っている選手ほど、パスは通っていました。ただし著者たちは、その差は「その選手がもともと持っている技術や、そのときの状況に比べれば、はるかに小さい」と書いています。
Jordet G, et al. Scanning, contextual factors, and association with performance in English Premier League footballers: An investigation across a season. Frontiers in Psychology. 2020;11:553813.[1]
「周りを見ろ」は、効いていました。首までは
まず、声かけそのものを試した研究があります[3]。スイスの高校生年代の女子選手に、少人数のミニゲームをしてもらいました。声かけなしの回と、ありの回をくらべます。声かけの中身は「ボールをもらう前に、空いている味方がどこにいるか見なさい」といった、ふだんコーチが言うのと同じようなものです。
結果、首を振る回数は27%増えました。つまり1.27倍です。測定には誤差がつきものなので、研究は「少なく見積もれば1.12倍、多く見積もれば1.44倍」という幅も添えています。幅の全体が「増えた」の側にあるので、増えたことは確かと読めます。ただしこれは「27%の子が見えるようになった」という意味ではありません。ボールを受ける前に首を動かした回数が、それだけ増えたということです。言えば、子どもは見るようになる。ここは、はっきりしていました。
ところが、そのあとのプレーが成功したかどうかは、声かけのある回とない回で、はっきりした差が出ませんでした。数字は0.89倍。これだけ見ると減ったように見えますが、一度測った結果にすぎません。誤差の幅は0.70倍から1.14倍で、「変わらない」を意味する1倍をまたいでいます。だから、減ったかもしれないし、増えたかもしれない——差があるともないとも言い切れない範囲です。同じ研究グループが、首を振る練習を何週間か続けてもらう実験もしています[4]。こちらも首を振る回数は増え、プレーの成功率は上がりませんでした。
言えば、首は振るようになりました。変わらなかったのは、その先でした。
分かったこと
はっきり見えている範囲は、思っているより狭い
私たちは、目の前の景色がぜんぶくっきり見えているつもりでいます。けれど、ほんとうにはっきり見えているのは、視線を向けたごく狭いところだけです。どのくらい狭いか。この分野の研究者は、腕を伸ばして立てた親指の爪くらい、という目安を書いています[5]。それより外側は、見えてはいるけれど、ぼんやりしています。
この記事では、この2つを「はっきり見える範囲」と「ぼんやり見える範囲」と呼ぶことにします。ボールがはっきり見えているとき、味方も相手も、ぼんやり見える範囲の中にいるわけです。
目を動かさないで、周りを見張る
では、うまい選手は目を忙しく動かしているのかというと、そうとも限りません。サッカーの実際の場面で守備の選手の目の動きを調べた研究では、一点に視線を置いたまま目を動かさず、ぼんやり見える範囲で他の選手を見張る、という見方が確かめられています[6]。目を速く動かしているあいだは、ものがよく見えていないことも知られています[5]。見る回数を増やせばいい、という単純な話ではなさそうです。
一度に見える範囲は、年齢とともに広がる
一度にどのくらいの範囲に気づけるかは、小学生のあいだ、年齢とともに広がっていきます。画面を使った課題で小学生から大人までを調べた研究では、中学生になるころに大人と同じくらいになりました[7]。低学年の子に「なんで見えないの」と言いたくなったとき、思い出したいことです。
もうひとつ。頭を使う難しい課題をしているあいだは、見える範囲がせまくなる。これは大人の競技者では測られています[8]。ただし、子どもで確かめた研究は見つかりませんでした。ここは「大人ではそう」までです。
振る回数が多いほどうまい、ではない
軸にした研究[1]で分かったのは、首を振っている選手ほどパスが通っていた、という「関係」です。首を振るからうまいのか、うまくて余裕があるから首を振れるのかは、この形の研究では分けられません。
しかも、差は上までは続きませんでした。ヨーロッパのトップクラスの試合で、受賞歴のある超一流の選手と、同じチームのエリート選手をくらべた研究では、首を振る回数にも成績にも差がありませんでした[2]。「振る回数が多いほど上の選手」ではないのです。
首を振る回数は、ポジションで違う
同じ軸の研究[1]で、首を振る回数は、中央のミッドフィルダーと中央のディフェンダーが最も多く、フォワードが最も少ないことも分かっています。前も後ろも気にしなければならない場所と、前だけ見ていればいい場所では、必要な見方がちがう。つまり、回数は、本人の上手さより先に、役割で決まる部分があります。相手のプレッシャーが強い場面では、うまい選手でも首を振る回数が減ることも、同じ研究に書かれています。
この記事で言えないこと
首を振ることと、うまいことの、どちらが先かは決まっていません。見える範囲が、頭を使う負荷でせまくなることは大人で測られていて、子どもでは確かめられていません。怒鳴られたときに子どもの見える範囲がせまくなるかどうかも、調べた研究が見つかりませんでした。見え方そのものを、道具で鍛えられないか。そう考えたくなります。実際、「動体視力トレーニング」のような、目を鍛えることをうたう機器やアプリが売られていて、目の訓練で選手の判断が速くなったと報告した研究もあります[9]。ただし、研究で効果が出た訓練は、何を、どの順番で、どれだけやるかを研究者が決めて、全員が同じメニューで行ったものです。売られている商品が、それと同じメニューだとは限りません。そして、冒頭の私の話は、私ひとりの話です。
家庭でできること
- 怒鳴らない。 大人では、頭を使う負荷がかかると見える範囲がせまくなることが測られています[8]。子どもで、しかも叱られた場面を見た研究は見つかりませんでした。それでも私は、見えてほしい場面ほど、声を落とすようにしています
- 練習に付き合うなら、「周りを見る練習」ではなく、ボール扱いのような「見なくてもできるようになる練習」を選ぶ。 足元を気にしなくてよくなった分だけ、目は外に回ります。私が前を見られるようになったのも、見ようと努力したからではなかった気がしています
- 子どもとボールで遊ぶなら、狭い場所と少ない人数を選ぶ。 広いコートで周りを見ろと言うより、見るべきものが近くにある形のほうが、手がかりを拾いやすくなります。親子の1対1は、すでにその形です
- 受ける前に、一度でも周りを見ているかを見る。 回数は数えなくてよいです。一度も見ていない場面と、一度でも見た場面のあいだには差があり、一度と二度、二度と三度以上のあいだには差がありませんでした[3]。映像を撮っているなら、見せ方は本人に主導権を渡す形で。詳しくは撮った映像の見せ方の記事に書きました
- 疲れているとき、強い相手のときに、見え方が変わるかを観察する。 同じ子でも、余裕がなくなると見えなくなります。それは性格の問題ではなく、余裕の問題かもしれません
- 目を鍛える機器やアプリを買う前に、研究で使われた訓練と同じものかを確かめる。 効果が報告されているのは「訓練」であって、「商品」ではありません
私はいまも、習い始めたことを続けています。前は見えるようになりました。でも、余裕がなくなると、また真下に戻ります。子どもの首が動かない日は、たぶん、そういう日なのだと思います。
- Jordet G, Aksum KM, Pedersen DN, Walvekar A, Trivedi A, McCall A, Ivarsson A, Priestley D. Scanning, contextual factors, and association with performance in English Premier League footballers: An investigation across a season. Frontiers in Psychology. 2020;11:553813. PubMed
- Caso S, McGuckian TB, van der Kamp J. No evidence that visual exploratory activity distinguishes the super elite from elite football players. Science and Medicine in Football. 2024;9(2):172-180. PubMed
- Hintermann M, Romann M, Lüdin D, Taube W, Fuchslocher J. Optimizing scanning in youth female football: The role of verbal instructions. European Journal of Sport Science. 2025;25(11):e70070. PubMed
- Hintermann M, Romann M, Born DP, Taube W, Fuchslocher J. "Heads Up Girls!" a training intervention to improve scanning behavior in youth female football. Frontiers in Sports and Active Living. 2025;7:1602099. PubMed
- Klostermann A, Vater C, Kredel R, Hossner EJ. Perception and action in sports. On the functionality of foveal and peripheral vision. Frontiers in Sports and Active Living. 2020;1:66. PubMed
- Vater C, Luginbühl S, Magnaguagno L. Testing the functionality of peripheral vision in a mixed-methods football field study. Journal of Sports Sciences. 2019;37(24):2789-2797. PubMed
- Bennett DM, Gordon G, Dutton GN. The useful field of view test, normative data in children of school age. Optometry and Vision Science. 2009;86(6):717-721. PubMed
- Williams JM, Andersen MB. Psychosocial influences on central and peripheral vision and reaction time during demanding tasks. Behavioral Medicine. 1997;22(4):160-167. PubMed
- Guo Y, Chen C, Peng J, Deng L, Yuan T. Does visual training enhance athletes' decision-making skills and sport-specific performance? A systematic review and meta-analysis. Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports. 2025;35(10):e70140. DOI
本記事は論文に基づく一般的な情報提供であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。お子さんについて気になることがあるときは、専門家にご相談ください。